石炭火力問題への対応 鍵握るCO2の回収貯留実現の技術
温暖化問題を議論する中心の場は国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)だが、昨年末のCOP25では日本は出席した環境NGOから不名誉な「化石賞」を2回も受けたという。その詳細は略するがいずれも日本が石炭火力に甘いことが原因らしい。今後日本が石炭火力をどう扱うのかは、日本に限らず世界の温暖化を憂うる人間にとっては大きな関心事のようだ。(地球環境産業技術研究機構理事長・茅陽一)
石炭火力は中枢電源
これは石炭が化石燃料の中でも二酸化炭素(CO2)発生原単位が一番大きいからだが、一方石炭は他の燃料に比べ安いから発電にはかなり以前から利用してきた。日本の場合、現在電力の32%を石炭火力が占め、まさに中枢電源といえる。
では将来の見通しはどうか。これは長期には現在存在する石炭火力だけでなく、これから建設される石炭火力の影響が大きい。既にかなりの新設が予定され、それが導入されると30年先の2050年にも2000万キロワット弱と現在の容量の半分程度の石炭火力が残ると予想されている。
一方、日本政府は、日本の温室効果ガス排出を50年までに8割減とする、という目標を16年5月に閣議決定している。この目標を達成しようとすれば、上記の石炭火力の状況は当然受け入れられないに違いない。
ちょっと話が違うようだが、昨年の科学誌ネイチャー関連誌によると、京都大学の藤森準教授らは自分たちのモデルを利用して日本の「50年CO2排出8割減」のシナリオを描いている。その50年の結果をみると石炭火力は完全にゼロで、発電以外の部門でもほとんど石炭は残らないことになっている。もし上記のシナリオに従う、とすると前記の2000万キロワット近い石炭火力の排出CO2を何らかの方法でゼロにする必要がある。
2つの道
2つの道が考えられる。第一はもちろんこれから建設されるものも含めて50年までにあらゆる石炭火力を停止させ、かわりに非炭素電源を導入することだ。ドイツはこの方向を熱心に追求している。同国は、10年前には発電の47%を石炭に依存していた。
それが、ごく最近の数字は29%と大きく下がり、代わりに再エネが17%から46%へ飛躍的に上昇している。わが国は現状では再エネが16%あるのだが、これは水力が中心で伸びているのは太陽光発電(現状5.7%)だけである。ドイツのように風力を大きく伸ばせるのか、これは風力の資源が北海道・東北に集中するといわれるだけにこれを如何に日本の他地域の需要に対応させるかが課題だろう。
ただ、ここで気になるのはこれからの計画分を含めて現存の石炭火力を停止するという選択を電力会社がどこまで受け入れるかである。というのは一旦稼働した石炭火力を燃料を他の化石燃料(たとえば天然ガス)に替えることは大きな設備投資が必要だし、稼働年限内に停止することは経済的に大きな損失となるからである。現在世界には「PPCA」と称する石炭火力の新設を一切行わないと宣言した電力グループがあるが、彼らも経済性を考えてか既存の石炭火力はその予定の稼働年数いっぱい運転することを計画している。この考え方をどうすれば変えさせられるかが今後の課題だろう。
また、これに代わる道として、排出するCO2の回収貯留、いわゆる「CCS」を実施する策がある。だが、CCSは現状ではその効果に大きな問題がある。というのは排煙中のCO2を吸収する吸収液から処理すべきCO2を取り出すのに大きなエネルギーを要するからで、従来よく使っていたアミン系の吸収液だと石炭火力発電電力の3~4割という大きなエネルギーが吸収だけで消えてしまう。現在筆者の研究所をはじめ関連研究機構がこのエネルギーの少ない吸収液の開発に力を入れているが、この技術開発がCCS利用の成功の鍵となることを強調したい。
【プロフィル】茅陽一
かや・よういち 東大工卒、同大学院修了。東大電気工学科教授、慶大教授を経て、1998年地球環境産業技術研究機構副理事長、2011年から現職。84歳。北海道出身。