サービス

“宝船”急減、地域経済に衝撃 新型肺炎でクルーズ中止、誘致自治体は悲鳴

 日本に寄港する国際クルーズ船が急減している。新型コロナウイルスの感染拡大によりツアーが相次ぎ中止されているためで、回復がいつになるのかも見通せない。地域経済を浮揚させる“宝船”と期待し、誘致してきた自治体から悲鳴が上がっている。

 予定44回が5回に

 「2月はほぼ全滅だ」。沖縄県の担当者がため息をついた。那覇など県内3港への寄港は当初予定の44回から5回(21日時点)に減少。来県する外国人旅行者の4割がクルーズ客だっただけに、衝撃は大きい。

 県によると、クルーズ客の県内での消費は1日当たり平均2万8000円。外国人旅行者全体の平均より1万円近く多い。特に中国人客が下船すると薬局や飲食店、免税店などを足早に回っていた。沖縄観光コンベンションビューローは「タクシーやツアーバス関係の雇用も含め、影響は甚大だ」としている。

 クルーズ船の発着地になることが多い横浜市の職員は「多くの乗客に旅程前後の観光を楽しんでもらっていた。打撃は途中の寄港地より大きいかもしれない」と焦燥感を募らせる。

 国土交通省は、国際クルーズ船の受け入れ拠点となる港の整備を全国で進めている。その第1弾として2017年に選ばれた佐世保港(長崎)では、新たな岸壁の供用が4月に始まる予定で、駐車場や周辺道路の整備も急ピッチで進む。今年は寄港回数の飛躍的な増加を目指していたが、2月は8回の予定がゼロに。地元経済団体からは「期待が大きかった分、水を差す形になりかねない」との声が漏れる。

 夏までの終息焦点

 19年に寄港が最も多かったのは7月で、次いで8月、6月だった。書き入れ時の夏場までに感染が終息するかどうかが一つの焦点だが、事態が収まればクルーズ客が戻るのかという不安もある。「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染で、船旅のイメージが悪化したのは大きな懸念材料だ。

 「船内での感染は精神的ダメージが大きく、終息しても客足が回復するまで時間がかかるだろう」と話すのは、九州産業大の千相哲教授(観光学)だ。

 千教授は、今回の事態は「クルーズ観光の発展に大きな影響を及ぼす」とし、船内での感染症対策強化が重い課題になると指摘する。

 一方、大阪大大学院の赤井伸郎教授(公共経済学)は「クルーズはリピーターが多く、極端な客離れは考えにくい」と話す。その上で「欧米からアジアに来る船や中国発着の船は減少が避けられないが、流行が落ち着けば回復も見込めるだろう」と予測。収支が悪化しそうな観光業者への支援を検討し、状況の好転を待つよう訴えた。