新型肺炎の感染拡大、東京五輪の開催は大丈夫なのか
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界的な規模となり、2月25日、国際オリンピック委員会(IOC)ディック・パウンド委員が「(5月下旬までに事態が収束しなければ)恐らく中止を検討するだろう」とコメントしたことにより、東京五輪の中止が懸念される事態にまで発展してきている。(GBL研究所理事・宮田正樹)
終息宣言は閉幕後
五輪の中止は、これまでに5回あるが、いずれも戦争による中止である。疫病の流行による五輪の中止は先例がない。歴史的なパンデミック(世界的な感染症の大流行)として有名なのは、1918年から19年にかけ全世界的に大流行した「スペイン風邪」(インフルエンザ)があるが、オリンピックイヤーには当たっていない。
近年では、ジカ熱感染が懸念された2016年のリオ大会があるが、地域的な流行であったことと既知の感染症であることにより、さほど大きな問題には発展しなかった。
新型コロナウイルスが驚異なのは、「未知のウイルス」であるというところにある。治療薬・治療方法が確立しておらず、治癒の可否・手立てに予測がつかないわけである。WHO(世界保健機関)が警戒している点もまさにそこだ。
新型ウイルスであるという点では、02年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の事例が参考になると思われる。SARSは同年11月に中国広東省で最初の患者が発生し、その後世界中に感染が広がり、最終的に8098症例と774人の死亡が報告されている。03年7月に台湾での最後の症例が発生したのを最後に、新たな症例が発生しなかったことから、WHOは同年7月末に世界的な流行が終息したと宣言している。
新型コロナウイルスはSARSの類縁といわれていることより、SARSと同じような流行と終息の過程をたどるとすると、昨年12月に湖北省武漢で最初に見つかっているので、WHOの終息宣言は早くとも今年8月末頃、まさに東京五輪の開催日以後ということになる。
果たして、五輪中止なんて事態になり得るのか、誰が決定し、金銭的な負担はどうなるのか、調べてみた。
IOCにも金銭的打撃
オリンピック憲章には、大会の「開催」の規定はあまたあるが、「中止」の規定は見当たらない。中止する場合は、最高決定機関である「IOC総会」または総会から権限を受けた「IOC理事会」が決定することになるのであろう。一方、IOCと東京都および日本オリンピック委員会(JOC)との三者で締結した「開催都市契約」には明確な規定があり、IOCは大会を中止する権利を有する。
大会が中止されても、都、組織委員会、JOCは「(IOCに対する)いかなる形態の補償、損害賠償またはその他の賠償またはいかなる種類の救済に対する請求および権利」をも放棄させられている。
そして、「契約の締結日には予見できなかった不当な困難かが生じた場合(新型コロナウイルスの流行が該当する)」でも「合理的な変更を考慮するようにIOCに要求できる」だけで、IOCがそれに応える必要はないことになっている。
このように、開催都市契約はとんでもなく不平等な条件となっている。IOCとしても全てを都、組織委、JOCにおっかぶせることができるわけでもなく、放送権料やスポンサー料などの収入は返還せざるを得なくなり、金銭的には大打撃をもたらすことになる。
ディック・パウンド氏がいう5月下旬に、日本における新型コロナウイルス疾患の流行が猛威を振るうような状況になっていない限り、大会は開催されるものと思われる。
【プロフィル】宮田正樹
みやた・まさき 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。