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新型肺炎で5G基地局整備遅延の懸念 部品供給滞り、携帯大手の計画再考も

 新型コロナウイルスの感染拡大が、3月から商用サービスが始まる第5世代(5G)移動通信システムのエリア整備計画に打撃を与える懸念が強まってきた。通信網に使う基地局の部品供給に遅れが出始めているからだ。政府は国としての競争力にも直結する5Gの早期普及に向け、減税や予算措置などを講じており、携帯電話大手も従来の整備計画の前倒しを検討しているが、軌道修正を迫られる可能性が出てきた。

 「新型ウイルスの影響を踏まえ、改めて計画を考えなければならない」。NTTドコモ幹部は5Gのエリア整備への影響を明かす。同社は今春の商用サービス開始に合わせ、基地局整備計画の前倒しを打ち出す予定だが、計画の練り直しが必要になっている。

 背景にあるのは基地局の部品供給の滞りだ。国内携帯大手は5Gの基地局に華為技術(ファーウェイ)など中国製基地局は採用していない。だが、調達先の日本や北欧の基地局メーカーが「半導体やアンテナなどの構成部品を中国の工場から調達しているケースがある」と総務省幹部は指摘する。中国では新型ウイルスの影響で労働力不足や部材調達に支障が生じている。

 ドコモ幹部は「3月末までは何とかなりそうだが、影響は出ると思う」と打ち明ける。目下、基地局メーカーとサプライチェーン(供給網)をたどり、部品をいかに調達するか協議を進めているが、4月以降の安定的な調達は不透明だという。基地局メーカー関係者は「代替しようにも5G基地局部品の調達先は限られ、対応は難しい」という。

 超高速、低遅延、多数同時接続を特性とする5Gは自動運転や遠隔医療などを実現し、生活や産業構造を一変させる技術として期待される。普及の鍵を握るのがエリア整備だ。5Gの電波の飛ぶ距離は現行の4Gと比べて短く、サービスを全国に行き渡らせるためには「4Gの約55万局より多くの基地局が必要になる」(総務省担当者)。

 政府は5Gのエリア整備を強力に後押しする。2020年度税制改正で、基地局を前倒しで整備すれば費用の15%分を法人税から税額控除する減税を導入。20年度予算では山間部や過疎地域での基地局設置への補助金制度も設けた。

 さらに今夏には4Gの電波を5Gに転用可能にする省令改正を行い、4G基地局を5Gに置き換えることなどができるようになる。

 携帯大手にとって、サービスエリア展開は競争力を左右する。このため、ソフトバンクの宮川潤一副社長が「4G電波の5Gへの転用解禁に備えて準備を進めており、エリア拡大を一気に加速してやっていく」と話すように、各社とも整備計画の前倒しを進める意向だが、新型ウイルスの感染拡大が水を差す可能性が高まっている。(万福博之)