高論卓説

新型肺炎、中東が対日厳格措置 「感染危険国」払拭に直接説明を

 中国発の新型コロナウイルス感染が中東でも拡大しはじめており、既に10カ国強で2500人超の感染者が発生している。中東諸国の中で最も懸念されるのがイランである。理由は2つある。第1は、イランが2月19日に中東で初の感染による死者を出し、しかも極めて短期間に中国に次ぐ死者の発生国となったことである。第2は、中東ではバーレーン、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)、イラク、オマーン、レバノン、エジプト、サウジアラビアなどでも感染者が出ているが、その多くが直前にイランを訪問していたことである。(畑中美樹)

 イランで感染による死者が発生したゴム市は、世界の約2億人といわれるイスラム教シーア派の教徒の聖地である。そのため、特に近隣のイラクやバーレーン、クウェート、オマーン、レバノンなどから巡礼者がひっきりなしに訪れている。例えば、レバノンの場合、最初に感染した女性は巡礼でイランを訪れていた熱心な教徒であった。しかもイランからの同じ帰国便に搭乗していた別のレバノン人乗客も発症している。

 イランでの感染者の大量発生を受けて、近隣諸国は国境の一時的な封鎖や航空便を停止するなどの予防措置を講じている。隣国イラクはイラン人が陸路国境を越えて入国することを禁じ、イラク航空のイラン便も全て停止している。

 さらにクウェートがイランとの出入国を全て止め全航空便を停止したのに続いて、トルコがイラン国境を一時的に封鎖するとともに、イランからの航空機の受け入れ停止を発表した。アフガニスタンもイランとの空路・陸路での移動を停止したほか、クウェートがイランからの全船舶に入港を禁止。オマーンがイランに向かう航空便の運航を全て停止したのに加えて、パキスタンもイラン国境の一時封鎖に踏み切っている。

 このほか、これら諸国の多くでは国内での感染拡大の防止に向けて、公立・私立を問わず学校・大学が一時休校とされ、展示会やコンサートなどの催し物も相次いで中止となっている。中でも注目されるのが、サウジが26日付で通知したメッカやメジナへのイスラム教徒の小巡礼や預言者モスク訪問を目的とする入国の一時停止措置である。

 中東での新型コロナウイルスの感染拡大は、一部諸国が厳格な対日措置を発表していることからわが国にとっても対岸の火事ではなくなっている。幾つかを挙げれば、イスラエル保健省が一定期間、日韓に滞在した外国人の入国拒否を表明するとともに、自国民に両国への渡航中止を要請している。

 また、イラクが入国禁止対象国に日本を韓国などとともに加えたほか、サウジの衛星テレビ、アルアラビーヤは自国民に日本旅行を回避するよう注意喚起している。クウェートも日本に滞在した外国人の入国拒否を表明し、イラクが自国民の日本渡航を認めないことを発表している。

 筆者は、わが国が韓国などと並んで中国発の新型コロナウイルスの感染危険国と見なされている現実をそろそろ認識し、中東諸国に現状を説明する必要があると考えるのだがいかがであろうか。

【プロフィル】畑中美樹

 はたなか・よしき 慶大経卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。東京都出身。