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無観客での開催続行 新型コロナ禍での競馬の存在意義

 新型コロナウイルスが猛威を振るっている。先週、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が出された。スポーツ・イベントは2020東京五輪の1年延期が決定するなど軒並み中断、延期を強いられている。そんな中、日本中央競馬会(JRA)は無観客での開催を続行している。その存在意義とは…。(産経新聞特別記者 清水満)

 「国民の娯楽」

 政府の緊急事態宣言後に日本騎手クラブの会長を務める武豊騎手が会見でこう話した。

 「(新型コロナ禍で)大変な状況ですが、テレビ、ラジオを通じて競馬を楽しんでください。僕らも全力で騎乗しますし、楽しんでもらって勇気を与えられたら…」

 そして次の言葉に語気を強めた。

 「競馬の売得金(馬券の発売金額から競争除外による返還金を引いた額)の一部は国に納付している。こんなときこそ競馬の存在感があると思う」

 JRAの国に対する財政貢献である。仕組みはこうだ。例えば100円の馬券のうち約75円が払戻金に充てられ、控除された25円のうち、10円が第1国庫納付金となる。残り15円がJRAの運営費となる。その事業運営の結果、各年度で利益が発生した場合、その利益の半分が第2国庫納付金となる。これらの金額は社会福祉の財源としても活用されることになっている。

 昨年、JRAは第1と第2を合わせて、3187億5070万3989円を納付金として国の一般財源に繰り入れた。決して少なくない額である。

 武騎手はこう締めた。

 「(開催続行を聞いて)身が引き締まる思い。競馬は国民の娯楽。社会に貢献したいし、他のイベントが中止となる中、続行できる意味を受け止めたい」

 そんな武騎手は12日、今季クラシックレース第1弾「第80回桜花賞」(G1、3歳牝馬オープン、1600メートル)で1番人気に推されたレシステンシアに騎乗した。惜しくも2着に終わったが、十分にパフォーマンスを見せていた。

 ちなみに勝利したのは松山弘平騎手が騎乗したデアリングタクト(栗東・杉山晴紀厩舎(きゅうしゃ))である。最後の直線で大外に持ち出して豪快にまくった。

 「この馬なら届くと信じて追いました。一日でも早く、皆さまの前で競馬ができるように心から願っています」

 松山騎手の言葉。デビュー3戦無敗での戴冠は1948年ハマカゼ、80年ハギノトップレディ2頭と並ぶ最少キャリアである。今後オークス(5月24日、東京)、秋華賞(10月18日、京都)と牝馬3冠へ“新怪物牝馬”誕生を予感させた。テレビ桟敷でしか見られなかったファンも、十分に楽しめたはずではないだろうか。

 JRAの無観客レースは2月29日から開催して12日で7週目を終えた。人が“密”になる競馬場、場外勝馬投票券発売所は完全にクローズ。電話、インターネット投票に限定した馬券の売り上げだったが、これまで平均して前年比で約2割減に踏みとどまっている。

 桜花賞の売り上げも140億4762万3500円で前年比83.4%。ファンは“生”で見ることができなくてもレースを歓迎しているのである。

 国・社会に財政貢献

 かつて競馬はギャンブル一辺倒の不遇な時代もあった。拙稿も、電車の中で競馬新聞を広げたとたん、周囲から冷たい視線を送られたものだった。

 ところが70年代、ハイセイコーという馬の登場で状況が変わった。地方競馬出身の馬が中央競馬で大暴れする。社会現象と呼ばれるほどの人気を集めて国民的アイドルホースとなり第1次競馬ブームの立役者となったのである。

 90年代以降は“シャドウロールの怪物”ナリタブライアンなど多くの人気馬が登場し、97年には売り上げ4兆円を達成した。一時落ち込みもあったが、昨年は約2兆8800億円。目下8年連続前年を上回り、回復傾向にある。競馬のグローバル化により、日本市場は欧州からも一目置かれるなど環境となった。“ブラッド・スポーツ”として多くの人々に認知され、支持されている。

 JRAの社会貢献と娯楽。新型コロナ禍の中、頑張っている。