「月給はTシャツ2~3枚分」たった1人で労組結成に立ち上がったヒロイン
「1カ月間で数万枚のTシャツを作っても、私の月給はわずかTシャツ2~3枚分の金額でした…」。工場で働く1人の少女が労働環境の改善を求め、労働組合を結成する実話を基にした映画「メイド・イン・バングラデシュ」が日本で3月、初上映され話題を呼んでいる。近年、バングラデシュは世界有数の衣料輸出国となり、その衣料製品は日本にも大量に輸入されている。だが、低賃金で働く労働者の環境は劣悪だ。来日した映画のヒロインのモデルとなったダリヤ・アクター・ドリさんに、バングラデシュの労働環境の実情、現場で働く労働者の声を聞いた。
「先進国である日本の労組の実態、労働環境はどうなっていますか?」
3月に大阪市で開催された「大阪アジアン映画祭」のゲストとして来日したダリヤさんは、いきなりこう質問してきた。
現在26歳。10代半ばから労働闘争に関わってきたダリヤさんは、世界の労働者の置かれた状況に、強い関心があるという。
近年、バングラデシュの首都・ダッカには、世界の大手アパレルブランドの工場が建設され、主要な労働力として、若い女性労働者たちが工場を支えてきた。
10代の少女が立ち上がる実話
映画の主人公、シムは夫と幼い娘との3人家族。Tシャツなどを縫製する工場で働き、家計を支えている。だが、いくら働いても低賃金で生活は苦しく、労働時間は延び続ける一方で、残業代は支払われない。工場幹部に労働状況の改善を申し出ると、逆に、「仕事がなくなるぞ。解雇されてもいいのか」と脅される状況だった。そんな中、労働組合の存在を知る。シムは独学で労働法などを学び、賛同してくれる工場の仲間を募り、帰宅後の深夜、勉強会を開くなど労組結成のために奮闘するが…。
「映画の内容は95%、実話です」と、ダリヤさんは打ち明けた。
同僚には、「どうせ労組結成など無理だからあきらめた方がいい」と途中で裏切られたり、夫には「女性なんだから、大人しく会社に従った方がいい」と邪魔をされたり…。
「シムが追い込まれていく状況はすべて私が経験した本当の話なんです」と苦笑した。
劇中、シムが仲間の署名を集めて準備した労組結成のための申請書類を、何度も行政当局の幹部へ提出し、交渉を続けて認可を求める場面は印象的だ。
そして、ついにシムは労組結成を勝ち取る。映画で描かれているように、2013年、政府から労組結成の認可がおり、ダリヤさんの工場に念願の労組が誕生する。
気になるのが、映画とは違うという5%の部分。「どこが違うのですか?」とダリヤさんに聞くと、驚くべき事実を教えてくれた。
「何度も私が交渉し、ようやく労組を認可してくれた行政幹部のモデルとなった人は、映画の中では最後まで悪者のままでしたが、現実には、その後、彼は政府から解雇されました。彼も労働者のことを思い、政府と戦ってくれていたのです」と嘆く。
また、映画の中で、シムは家族3人で幸せに暮らしているが、「実際には、その後、私は夫と離婚しました。映画で描かれているよりも、私の労組の活動に対し彼は協力的ではなかったんです」と明かした。
労働問題は世界の課題
現在のバングラデシュの労働環境はどうなっているのだろうか。
「私の工場で2013年に労組が結成された話は話題となって社会へ波及し、労働環境は改善されていくのですが、女性労働者の賃金はいぜん安く、まだまだ改善余地が大きいのが現実です」
なぜ、10代の頃に労働問題に目覚め、たった1人で工場幹部や行政の圧力に屈することなく戦い続けることができたのか。
「私は工場の仕事に誇りを持って働いてきました。それなのに解雇されかけた。労働者の権利を守るためには、今、自分が動かなければいけない。後に続く若い人たちの夢や希望まで潰えてしまう。自分1人のための戦いではないと思ったから、苦しくても続けられたのだと思います」
同作を一緒に作り上げたバングラデシュ生まれの気鋭の女流監督、ルバイヤット・ホセインと、この映画製作を通じて意気投合。今後は、2人で、世界の映画祭を回り、バングラデシュの労働の実態を伝えるとともに、海外の労働問題について勉強し、自国だけでなく世界の労働環境の改善のために提言していきたいという。