【デジタル経営革命新時代】(2)企業理念に立ち返り議論を

 
フォーバルの大久保秀夫会長(左)とSTANDARDの安田光希代表取締役=3月31日、東京都渋谷

 --よく分かります。STANDARDを創業したのも、どうすれば目の前にいる人により価値を与えられるかと考え続けたのがきっかけです。最初は後輩の学生たちを集めて、AI技術を教えていたのですが、もっと価値を与えるためには、対面で教えるよりも動画を作ってオンラインで教えるべきだと考え、デジタル化しました。そのコンテンツをソフトバンクさんに評価されたことから、学生だけでなく企業に対しても価値を与えられるのだと気づき、企業向けにシフトしていきました。最初はエンジニア向けの講座だけを提供していたのですが、先ほどの“使う人”を育てることも必要だということで、そのためのコンテンツも提供。さらには企画、開発といった部署の人に対しても専用のコンテンツを提供するようになりました

 「素晴らしい仕事だと思います。フォーバルグループで、IT教育サービス事業やITエンジニアの育成・派遣事業を行っているアイテックが3月にSTANDARDと業務提携。御社のAI関連技術教育コンテンツを提供させていただくことになりました。御社の考え方に大いに賛同し、その考え方を少しでも普及できるようにと鋭意、動いているところです。安田さんのような若い経営者が成功することで、俺も俺もとイノベーションを起こそうとする人が後に続くことでしょう。ただし、IPO(株式公開)をしたいとかひと旗揚げたいという気持ちではだめです。きちんと経営の本質を理解したうえでないと、単なる技術者集団で終わってしまいます」

 ◆バランスが大事

 --大久保会長はいつ、どこでそうした経営哲学を学ばれたのですか

 「私の先生は稲盛さん(稲森和夫氏=京セラ創業者)と盛田さん(盛田昭夫氏=ソニー創業者)です。30代の初めに、稲盛さんの『盛和塾』と盛田さんの『盛学塾』で、孫さん(孫正義・ソフトバンクグループ会長兼社長)、南部さん(南部靖之・パソナグループ代表兼社長)らと一緒に経営とは何かということを勉強しました。ちょうど、私が新日本工販(現フォーバル)の株式公開に向けて、経営の在り方を模索していた時期に両経営塾に巡り合ったのです。盛田さんは積極果敢にアメリカまで行ってイノベーションをどんどん起こすというタイプ。一方の稲盛さんは愚直に組織を作り、人を育てるという考え方で、それぞれ違う。経営にはその2つとも大事なのだということを徹底的に教え込まれ、今の私自身を形成したのだと思っています」

 --イノベーションを起こすことと、組織を着実に成長させることを両立させていくのは、非常に難しいことだと思いますが、その要諦はどこにありますか

 「バランスです。イノベーションだけに重心を置いていたら企業は成り立たない。かといって、守りに入ったら企業は伸びません。イノベーションを起こすために、どこまで技術開発に投資すればいいかを現状のリソースとのバランスを考えて、常にアクセルとブレーキを踏み変えていくことです。当社でも、私と社長がいつも話し合うのはバランスについてです」

 --ナンバーワンとナンバー2の経営者同士で話し合ってバランスをとっているのですね

 「その最たる例がホンダです。創業者、本田宗一郎さんが根っからの技術屋で、浜松工場で水冷エンジンなどの技術開発に没頭しているときに、名参謀といわれた藤沢武夫さんが総務・人事・財務を含めて本社業務をしっかりと守った。経営者がイノベーションに熱中するのと同じくらいの意気込みで組織を守る人間を置いたのです。本田さんと藤沢さんは会社の経営をめぐって本気でけんかしました。ナンバーワンとナンバー2が口角泡を飛ばして議論できる会社ならバランス経営ができます。本田さんと藤沢さんは同時に退任して後進に道を譲りました。藤沢さんが『おやじ、もう辞めよう』と、自分も本田宗一郎以外の人に仕える気はないからとね。夫婦以上の信頼関係だったのです」

 ◆どう在るべきか

 --STANDARDは、共同創業者が私を含めて3人います。3人が出会ったのが今から4年ほど前なのですが、その半年後くらいから3人一緒に住むようになりました。シェアハウスで1年半ぐらい共同生活をしたのです。1つの家で、朝から晩まで3人が一緒に仕事をしていて、プライベートも全て筒抜けという期間があったのですが、そのおかげで、お互いの考えていることが阿吽(あうん)の呼吸で分かるようになりました。振り返ってみると、3人が目指すところや志は同じであるにもかかわらず、よく議論したのは、それぞれの性格とか、どこに視点を置いて物事をみるかとか、生まれ育った環境とか、得意分野などに違いがあるからであり、議論することにより、物事を別の角度から見ることができたり、二次元ではなく三次元でとらえられたりと、より高いクオリティーで解釈できるようになったのかなと思います

 「経営をめぐって議論が分かれたら、企業理念に立ち返ることです。富士山に登ることが目標なら、ルートは山梨県側とか静岡県側とかいろいろある。それを参加者の好みで自分勝手に主張していたら必ずぶつかる。そのときにそもそもの登山の理念に立ち返れば、自然と最適なルートに落ち着きます。How to doだけではだめで、How to be、どう在るべきかを議論するのです。そのためにも、企業理念をしっかりと持っていないといけません」

 --大久保会長はフォーバル会長として、どのようなHow to beをお持ちですか?

 「日本の中小企業にとって、なくてはならない存在になろうと本気で考えています。中小企業にとって必要と思われる技術・サービスを実現するために、新しい会社や組織を次々と作ってきました。今回のSTANDARDとアイテックの相互協力による中小企業のAI人材の育成、DX化促進に向けても、しっかりとHow to beを全社員に浸透させて取り組みたいと思います」

 --STANDARDのHow to beは、先端テクノロジーを日本の会社がきちんと使える形にして普及させていくことです。まず、デジタル技術の人材育成を全産業の大企業に対して普及していくことが日本全体のDX推進を進める上での最重要事項だと考えて実行してきました。しかし、各社のニーズを聞く中で、今後は各業界にいかに深く特化するかが普及を進めるポイントだと考えています。それと人材育成を組み合わせることで、日本全土の中堅・中小企業にもAIを含めたデジタル技術の恩恵を受けてもらえると信じています。フォーバルグループと一緒により多くの顧客や社会に付加価値を与えていきたいと思います

 ■フジサンケイビジネスアイ 「DX SUMMIT2020」今秋開催

 フジサンケイビジネスアイでは、STANDARDによる最先端のDX事例や、国際大手企業のDXへの取り組みを紹介する「DX SUMMIT2020」の開催を今秋に予定しています。このイベントに関する情報、問い合わせはHP(https://standard2017.com/)からお願いします。