【デジタル経営革命新時代】(1)中小のDX促進へ意識改革

 
大久保秀夫氏
安田光希氏

 フォーバル代表取締役会長・大久保秀夫氏×STANDARD代表取締役・安田光希氏

 人口減少やグローバル化、デジタル化という大波が日本の経済社会に変革を迫っている。日本経済を支える中小企業の多くが人手不足などの課題を抱えており、効率化やそのためのデジタル化が強く求められている。日本企業、特に、その根幹を担う中小企業のデジタル化、経営改革をどのように進めていくべきか。STANDARD代表取締役の安田光希氏が、フォーバル代表取締役会長の大久保秀夫氏に展望や課題を聞いた。

 ◆“使う人”だけ育成を

 --中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)がなかなか進みません。大久保会長は数多くの会社の経営を見てこられていますし、ビッグデータ活用の重要性も訴えられています。DXが進まない要因をどのように見られますか

 「要因の一つには、経営者の高齢化が挙げられるでしょう。日本の企業数の99.7%を占める中小企業の社長の平均年齢は、いまや70歳近い。若い年齢層の経営者はしっかりと勉強をしているのですが、大半の経営者はデジタル技術に慣れ親しんでいない年代の人たちなのです。さらに、デジタル技術に詳しい人材を採用しようとしても、彼らは中小企業や商工業者に就職しようとは考えません。たとえ、経営者がDXを進めたいと考えていても、必要な人材が採れないというのが現状です。そのためにDXが遅れ、結果として大手企業との生産性格差がどんどん広がっています」

 --私は、中小企業がデジタル技術を難しく捉え過ぎていることも要因だと考えています。デジタル技術を扱う人材は、大きく“作る人”と“使う人”の2種類に分けられますが、実は中小企業に必要なのは“使う人”だけである場合も多い。“作る人”というのは、AI開発を例にあげれば、より高い精度が出るようなアルゴリズムを新たに開発したり、既存のアルゴリズムを応用してモデルを作ったりする人材を指しています。GAFAなどに高給で引き抜かれるのは、このような人材です。一方、“使う人”というのは、ユーザー各社でデータを整備したり、現場の課題を吸い上げて企画を立案したりする人材を指しています。確かに、“作る人”はなかなか中小企業には入ってこないでしょう。ただ、いまは彼らのアウトプットを代替できるようなツール類が数多く提供されています。これらをうまく活用すれば、中小企業は“使う人”だけを育成することでDXが実現できます。彼らは、ある程度のデジタルリテラシーと、新しいものを試してみようというマインドさえあれば自然に育っていきます。このようなリテラシーやマインドを醸成できさえすれば、さほど難しいことはありません

 「昔と違って、オープンソースソフトウエアやクラウドサービスがありますから、確かに自社で一から開発する必要はありませんね。中小企業の経営者に、デジタル技術は身近なものだということをもっと認識してもらえるといいですね」

 --そうですね。これらの技術は確実に社会のインフラになっていきます。「最近AIがはやっているから、ウチもこのツールを入れてみよう」というような一過性の話ではありません。いわば、ビジネスをもっと強くするため、顧客により大きな価値を提供するための土台となるものです。これは何としても社内の人材で扱えなければなりません

 「もう一つ大事なのは、今後、日本の人口が大きく減っていくことですね。この環境下では、デジタル技術を活用しなければ企業経営が成り立たなくなっていきます。特に、IoT(モノのインターネット)を人に代えて活用すれば、業務の生産性はどんどん上げられる。日本はソフトウエアの分野では出遅れてしまったけれど、ハードウエアの強みを生かせるIoTの領域なら日本企業が世界を制することも十分に可能だと思います。人手不足が深刻な中小企業にとって、IoTは必要不可欠です。さらに、そこからビッグデータ化とか、AI化が進みますから、システムの供給や人材育成といった面で後押しをするわれわれのような企業の役割が重要になってくると思います」

 ◆企業は社会の公器

 --今、世界を見渡しても、先端のデジタル技術を駆使したビジネスを行っているのはわれわれ含めて若い企業が多い印象です。大久保会長も25歳で若くして起業されましたが、われわれのような若い世代の経営者へアドバイスをいただけますか

 「日本社会を活性化するためには、もっともっと企業の新陳代謝を激しくして、イノベーションを起こしてもらう必要があります。なので、デジタル関係を中心に若い経営者がどんどん出てきてほしいと思います。ただ、企業には社会的責任があります。国を支えるための納税と経済を支えるための雇用という2つの義務のことです。企業は社会の公器ですから、いくら若くても経営者である以上は公人なのです。イノベーションを起こすことにたけているだけでなく、起業した以上は、その企業を存続させることにも意識を傾注してほしいですね」

 --企業を存続させる秘訣(ひけつ)は何でしょうか

 「第一に、社員とその家族、顧客、株主、取引先といったステークホルダー全員を幸せにすることです。私は“社中分配”と言っていますが、それをしないと経営は長続きしません。誤解を恐れずに言うと、企業にとって利益は手段であって、目的ではないのです。良い技術・サービスで社会に貢献しよう、社員を幸せにしようということが目的であり、それを達成するためには利益を出す必要があるということです。株主を最重要視する株主資本主義というのも、長期投資を阻害する面もあるし、会社というものの本質を間違えていると思う。私は“公益資本主義”と呼んでいますが、企業は公益的な考えを持ったうえで利潤を求めるべきです」

【プロフィル】大久保秀夫

 おおくぼ・ひでお 国学院大法卒。アパレル関係企業、外資系英会話教材販売会社を経て1980年、25歳で新日本工販(現フォーバル)を設立、代表取締役に就任。88年、創業後8年2カ月という日本最短記録で史上最年少(いずれも当時)の若さで店頭登録銘柄(現JASDAQ)に株式公開。2010年、代表取締役会長に就任。会長職の傍ら、講演・執筆、国内外を問わずさまざまな社会活動に取り組む。カンボジアにおける高度人材の育成を支援する「公益財団法人CIESF(シーセフ)」理事長、NPO法人元気な日本をつくる会理事長、一般社団法人公益資本主義推進協議会代表理事、東京商工会議所副会頭・中小企業委員会委員長なども務める。65歳、東京都生まれ。

【プロフィル】安田光希

 やすだ・こうき STANDARD代表取締役。灘中時代に株式投資に興味を持ち、世界的なヘッジファンドの創業者、レイ・ダリオ氏の影響で機械学習の世界へ。メガベンチャーで事業立ち上げを経験し2017年8月株式会社STANDARD設立。現在大手企業を中心に350社以上のDX推進・AI活用に関わる。