プロジェクト最前線

avatarin「アバター」 自分の分身ロボ、世界中に“瞬間移動”

 人の分身「アバター」となるロボットを全世界に普及させて瞬間移動を実現させる-。ANAホールディングス(HD)の社員だったavatarin(アバターイン)の深堀昂(あきら)最高経営責任者(CEO)と梶谷ケビン最高執行責任者(COO)は大きな目標を掲げて、4月にANAHDから独立した。折しも新型コロナウイルス感染症の大流行で人の移動が制限される中、アバターには注目が集まっており、ANAHDの経営陣からも応援を受けている。深堀氏は「10万台でもすぐに販売できる」と意気込むが、新型コロナ後のニューノーマル(新常態)にどこまで普及させられるか注目が集まる。

アバター事業には親会社のANAホールディングスの片野坂真哉社長も期待を込める=昨年10月15日、千葉市美浜区の幕張メッセ
人の分身となるロボット「アバター」の普及を目指すアバターインの深堀昂氏(右)と梶谷ケビン氏=東京都中央区
「スペースアバター」を使って国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の窓から宇宙を眺めるイメージ(C)avatarin/ Clouds Architecture Office

 仮想的に人間を代替

 アバターは、カメラ付きのタブレット端末が人間の「目」と「耳」と「顔」の役割を持ち、移動する車輪という人間の「足」の機能も備えたロボットだ。遠隔地からインターネット経由でタブレットやスマートフォンで操作して、さまざまな場所で人間の代わりに移動したり見たり聞いたりできるのが特徴で、ネット経由でロボットを操作する技術は特許も取得しているという。

 アバターは、人間の代わりに移動させることでさまざまな用途で利用が可能。大分県の商店街で買い物をしたり、香川県の水族館で飼育員の解説を聞きながら巡回したり、石川県の病院で遠隔地からお見舞いしたりすることを実現させている。

 新型コロナの感染拡大が本格化した4月以降、問い合わせが相次いでおり、「両親の見守りで使いたい」「結婚式に出られないので貸してほしい」など、具体的な利用方法の問い合わせが国内のほか欧米や中国などからも来ているという。梶谷氏は「こういう事態が起きないと新技術の必要性が見えにくいのは事実だ」と話す。

 アバターは、あくまでも人間の代わりに瞬間移動を実現させるものだが、深堀氏と梶谷氏は2016年の段階では、困難なテーマの実現を目指す世界的な賞金レース「Xプライズ」のテーマとして提案するほど、本当の瞬間移動「テレポーテーション」の実現性を探っていた。提案したプレゼンの中で、Xプライズ財団創設者の米著名起業家、ピーター・ディアマンディス氏からは高い評価を受けたが、研究者からは実現には程遠いとの声が出たことから、断念。仮想的に瞬間移動を実現させるアバターの開発を目指すことになった。18年3月にはXプライズのテーマにも選ばれ、ANAHDの社内事業として正式にスタートした。

 ただ、それでも社内には「なんで本業(の航空機運航)を置き換えるようなサービスを提案するんだ」との異論が多かったという。梶谷氏は、18年にアバター事業を正式に始めるに当たって役員と議論になることもあったと振り返る。アバターが普及すれば、飛行機を利用しなくなるということで異論が社内から出るのは当然とも言えるだろう。しかし、梶谷氏は「飛行機の利用者は世界では6%にすぎない。94%の人のためにもやりたい」と反論したという。

 触覚や味覚も伝送へ

 アバターは、宇宙事業を実現させる目標を抱き続けているANAHDの片野坂真哉社長の心にも刺さった。昨年10月の最新家電・ITの展示会「CEATEC(シーテック)2019」で、片野坂氏は「(アバターで)アマゾンやエベレスト、南極や宇宙の音を聞き、風を感じることもできるようになる」と述べた。アバターが、触覚も遠隔地に伝送できるようになる未来の姿を説明した。

 アバターは将来的には、災害現場など人間が行けないところで活躍するようになることや、頭で思い描くだけで操作できたり、触覚や味覚も含めた全ての人間の感覚を伝えたりすることを目標としている。

 ただ、短期的な目標としては、利用する場所や利用方法を多様化させて、安定した利用を実現させることを重視する考えだ。日本でも提供が始まった第5世代(5G)移動通信方式を活用すれば、遠隔地から高精細の画像の伝送や遅延のない操作が可能になる。梶谷氏は「今、アフリカの病院でも使いたいといわれているが、アフリカには第3世代(3G)移動通信方式しか普及していない地域も多い。世界中で普及させるためには、最新の通信環境ではなくても安定して動くようにしないといけない」と話す。技術開発と、普及に向けたマーケティングの両立を図っていくため、さまざまな企業ともパートナーシップを組む方針だ。(大坪玲央)

 ≪焦点≫宇宙ステーションからの眺め、年内に実現

 アバターインは目標の一つだった宇宙に早くも進出した。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から、アバターを操作して宇宙や地球を眺めることが年内に実現する見通しとなった。

 アバターインの宇宙事業は、きぼうの船内にアバターインの開発した専用アバター「スペースアバター」を設置して地球から操作し、船内環境を眺めたり、きぼうの外の宇宙や地球を宇宙から眺めたりするというもの。アバターのカメラで撮影した4K動画がインターネット回線を通して地球で視聴できるようになる。

 宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機は5月に、スペースアバターを搭載してきぼうに到着しており、年内には一般向けにスペースアバターを操作するイベントが開催される。

 「宇宙で月の上を歩くことも可能になる」。ANAホールディングス(HD)の片野坂真哉社長は、昨年のシーテックで、アバターを使った擬似的な宇宙旅行体験についてこう説明したが、今回のスペースアバターの活用は、“宇宙旅行”の第一歩といえそうだ。

 アバターインのアドバイザーを務める4人の有識者の一人、東京大大学院の中須賀真一教授(航空宇宙工学)は「現段階では人が宇宙に行く費用や危険性は大きいが、宇宙に実際にいるようなアバター体験が人類の思考にどのような変化をもたらすか、世界初の試みを楽しみにしたいと思います」とコメントしている。

 【本社】東京都中央区日本橋室町3-3-9 日本橋アイティビル5階

 【資本金】2億円

 【売上高】非公表

 【従業員数】21人(6月1日時点)

 【事業内容】アバターの開発と普及