マネジメント新時代

ポスト・コロナの自動車産業 考えるべき3つのキーワード

 新型コロナウイルスが猛威を振るっている。その中心は中国から欧州へ。さらに米国、ロシア、ブラジル、そして新興国に移っている。世界中で蔓延(まんえん)している新型コロナに対し、ポスト・コロナの自動車産業はどうなるのか。(日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎)

 3つのキーワード

 新型コロナに関し、地域の時期は異なるにせよ、収束に向かっても、人々の意識の中ではどうしても忘れられないものが3つあると思われる。そのキーワードが自動車産業にどう影響を及ぼすのか、考えてみたい。

 (1)ソーシャルディスタンス 言うまでもなく、人々はどうしても他人との距離をこれまで以上に保つことを意識する。これはいくら規制が解除されても同様であろう。それは屋外のみにとどまらず、室内、さらにはクルマの室内も同様である。

 自動車会社の開発に関連することであるが、今後は、室内空間を十分に取った車両が好まれるのではないだろうか。5人乗りよりも4人乗りである。車両サイズは、小さなサイズは敬遠され、中型車、ワゴン車などがこれまで以上に望まれるであろう。また、EVでいえば、充電ガンに触れないワイヤレス給電なども導入の範疇(はんちゅう)に入るのではないか。開発陣は、人々の行動思考を考慮した開発を進めることが望まれる。

 (2)感染の第2波 いったん収束したとしても、第2波、第3波が予想される。このため、自動車会社が工場を再開したとしても、ある地域で第2波に見舞われると閉鎖せざるを得ない。部品メーカーも同様である。つまり、新型コロナが波状攻撃で来ることにより、サプライチェーン(供給網)はたびたび寸断される。自動車会社としては安定しないため、生産性に大きく影響するであろう。

 (3)在宅ワーク 規制が解除となっても、全ての企業が在宅ワークから通勤ワークとはならないのではないか。例えば、どうしても出勤しなければならない日は2日間とし、それ以外は在宅ワークという手もある。これは、自動車を通勤などで使用する機会を減らし、クルマそのものの価値を下げることに繋がる。結果的に自動車販売台数の減少、もしくはコストパフォーマンスを考慮して廉価なクルマを選択するなど、販売面で悪化をもたらす。

 さらに、5月23日米レンタカー大手ハーツ・グローバル・ホールディングスが連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻した。ハーツのようなレンタカー会社は、自動車会社からフリート車と呼ばれ、市場で売れない場合や、売れ残ってしまったクルマを大量に流す受け皿の役割を担っていた。これが破綻となると、米国では見込み生産であるため、売れ先が絞られ生産過多になるか、生産ボリューム減少につながる。

 回復のリード役は

 新型コロナの影響により、日米欧の自動車会社の販売台数は、いずれも対前年比を大幅に下回っている。しかし、中国では1月の発症以来、武漢をはじめ各都市で2~3月に都市封鎖していたが、解除されると、政府の後押しもあろうが、一気に生産・販売を取り戻してきた。

 なんと、4月の新車販売台数は対前年比4.4%増の207万台に回復している。筆者の予想としては、今年は昨年の新車販売台数2570万台に対し、同等もしくは対前年比で10%減のレベルまで戻すのではないだろうか。

 しかし、中国でも第2波、第3波などの到来は免れない。中国の自動車産業も、上述の3つのキーワードに配慮しながら、次第に回復させると思われる。また、回復に伴い、一時止まっていた自動運転車の開発も、自動車メーカーのみならず、百度、テンセント、ファーウェイなどが自動車メーカーと組み、積極的に展開していることも強みといえる。

 ポスト・コロナの自動車産業を想定するに、どこがリード役となるかといえば、欧米は急激に回復とはいえず、やはり最大市場の中国が中心になるのではないか。その際に、いち早く回復にかじを切った中国市場にどのようなアプローチをするかが事業の明暗を分けるであろう。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。63歳。福井県出身。