コストコが救う人気養殖マダイ 料亭・ホテル需要激減で
養殖マダイの全国生産量の6割近くを占める愛媛県産養殖マダイが、今春、出荷できない状態になった。新型コロナウイルスの感染拡大で全国的に飲食業界が営業自粛をし、需要が激減したためだ。そんな国内最大の産地を救う形になったのは、米国資本の会員制倉庫型店「コストコ」。同社は「養殖の適地から仕入れた食材は品質も安心できる」とし、愛媛産養殖マダイの販売に乗り出した。
旬に売れず
5月末、宇和海に面した同県宇和島市の水揚げ場。「田中水産」の田中京治さん(70)の養殖マダイが、コストコ向けに水揚げされた。
岸壁の網の中では、沖合のいけすで育てたマダイがひしめいていた。水揚げが始まると、作業の人たちは手慣れた手つきで、水しぶきを上げる魚を1匹ずつ大切そうに専用ケースに入れていった。コストコ向けは2~2・5キロほどのサイズ。タモですくい上げ、その場で生け締めした後、すぐに加工工場へと運ばれた。
田中さんは「いつもは料亭やホテルに出しているが、今年は出せなかった。50年やっているが、こんな年は初めて」と話す。
マダイの旬は春だが、今年はその時期に売ることができなかった。例年なら1日に2千~3千匹水揚げするところ、今年は700匹程度にとどまったという。
国の農林水産統計では、平成30年の同県産養殖マダイの生産量は3万4009トンで、全国の56%を占めた。同県によると、産地はほとんどが宇和海で宇和島市と愛南町が中心。今年は新型コロナ感染拡大の影響で、外食向けの出荷が滞留している。「魚は出ない(売れない)、餌代は下がらないでは収支のバランスが取れない。早く需要が回復してもらわないと」と田中さんは困り顔だ。
養殖ものはサステナビリティー
こうした中、「生産者が困っている。どうにかできないだろうか」と、コストコ側に販売を提案したのが宇和島市の活魚加工会社「イヨスイ」だった。
コストコは、高品質の品物を安価で販売するという会員制の大型スーパーで、世界に787店舗(5月1日現在)あり、日本ではコストコホールセールジャパン(神奈川県)が26店舗を展開している。
同社は、もともと「枯渇のリスクがある天然水産資源よりも、サステナビリティー(持続可能性)を考慮した養殖ものの調達に取り組んでいる」といい、以前も愛媛県産の養殖マダイを取り扱ったことがあった。
同県でのタイの養殖については「栄養素やミネラルを多く含む黒潮が流れ込み、リアス式海岸をもつ愛媛県はタイの養殖に最適」と指摘。全国の倉庫型店で、仕入れた愛媛の養殖マダイを、完全養殖の本マグロなどとともに、刺し身用の「さく」で販売しており、同県産の養殖タイを販売することについて「適地から仕入れた食材は品質も安心できる。会員さまが求める価値を提供できる限り続けたい」としている。
「天然よりおいしい」
コストコ側に販売を持ちかけたイヨスイ営業戦略室チーフ、荻原寿夫さん(37)は「浜問屋は生産者とともに生きている。知名度のあるコストコさんで扱ってくれるのはありがたい。これをきっかけに養殖マダイが安心で安全な商品であることがもっと知られるようになってほしい」と期待をかける。
田中さんも「愛媛の養殖マダイは甘みがあり、天然よりおいしい。天然ものは減っているので、養殖業界に未来はあると思っています」と前を向いた。