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スポーツの無観客試合が導く新たなコンテンツとは

 コロナ禍はいまだ収束には至らない中、プロ野球は19日から、Jリーグは7月4日(J1)から、それぞれ無観客で公式戦をスタートすることになった。コロナ禍の下での観戦型スポーツは「中止」または「無観客」での開催が強いられてきており、入場料収入を経営の基盤としている観戦型スポーツにとって重大な局面を迎えている。(GBL研究所理事・宮田正樹)

 球団・クラブによって差はあるものの、プロ野球は球団収入の30~40%(金額にすると30億~80億円)ほどが、Jリーグの場合はクラブ収入の約20%(金額にすると平均で7億円)ほどが、それぞれ入場料収入だと推計される。無観客が続けば、試合から得られる収入はテレビなどの放映料収入のみで、現状の放映料は入場料収入と比べると少ない金額であり、事業継続が困難となる球団・クラブが続出することになり得る。

 対戦型は有効か

 興行中止や無観客興行が続くことにより、事業そのものが消失してしまう恐れは、演劇・音楽など他のエンターテインメントも同じ状態であり、エンタメ文化が危機に陥っているというのが現状である。

 自粛・無観客状況はいつまでも続くものとは思われず、程なく観客入りでの試合の開催が始まるものと思われるが、再び無観客での興行が強いられ、入場料を得ることができなくなる事態は予想しておかなくてはならない。そのためにも、入場料収入を補う収入源を見いだすことが球団・クラブの重要課題となっている。

 1つは、放映料の増額交渉である。地上波テレビや衛星放送、有線放送、インターネット配信といったメディア間競争の激化の中で、即時性が尊ばれるコンテンツとして「対戦型スポーツ」の価値を高めたのが米国での現象だった。国情の異なる日本において同じ戦略が有効に機能するかは予測できないところもある。

 もう1つ、最近ネット社会で取り入れられ、先般浦和レッズが導入を発表した「ギフティング」がある。ギフティングとは「投げ銭」とも呼ばれるネットを介した「寄付」システムであり、ある種の特典を購入することにより、その代金の一部が球団やクラブ、アスリートなどに寄付される仕組みとなっている。

 ギフティングの主催者に信用力があり、広いファン層を保有していることが前提となるが、大きな金額での寄付を募る場合には、寄付税制の改革が必要となり、現状では難しい。筆者としては、ギフティングはファンクラブ事業のバリエーションの一つだと位置付けている。

 技術を魅せる演出

 視点を放送・配信サービス側に移してみよう。野球やサッカーなどの団体スポーツが無観客で行われることに視聴者が慣れてくると、新たなスポーツコンテンツが開発され、受け入れられる土壌ができあがってくるものと思われる。

 注目されるのは即時性・勝敗よりもアスリートの技術が問われるスポーツだ。例えばビリヤードのような競技である。現在YouTubeにはたくさんのビリヤード録画が掲載されているが、単にゲームを追っているだけでは素人には退屈な画面が続くだけである。

 即時性を放棄して、繰り出される技術を解説するカットを組み入れることにより、とびきりのエンタメコンテンツになり得ると思われる。同じ手法がゲートボール、グラウンドゴルフなどシルバースポーツにも応用できるであろう。ギターを中心に楽器の演奏ガイドの映像があふれていることもその予感を裏打ちするものである。

 このような視点で映像や構成を組み立てれば、新たなスポーツコンテンツが開発できるものと期待される。

【プロフィル】宮田正樹

 みやた・まさき 阪大法卒。1971年伊藤忠商事入社。2000年日本製鋼所。法務専門部長を経て、12年から現職。二松学舎大学大学院(企業法務)と帝京大学(スポーツ法)で非常勤講師を務めた。