コロナがもたらす流通業界「後発組」の勝機 生き残りかけた“脱皮”
百貨店など流通各社が金融サービス事業のテコ入れに着手している。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って外出自粛が広がり、屋台骨だった店頭での衣料品販売などが不振にあえぐ中、高収益事業として改めて熱視線が注がれる。店舗での購買行動から消費者の興味や関心を把握できる強みも生かし、収益源とすべく新たなサービスの形を模索している。
「今後、100億円の営業利益を上げる収益部門に育て上げていく」。高島屋が日本橋店に投資信託などを販売する窓口「ファイナンシャルカウンター」を開設した6月17日、村田善郎社長は金融事業を百貨店、不動産と並ぶ第3の収益の柱にすると強調した。
ファイナンシャルカウンターは、高島屋の子会社と業務提携したインターネット証券大手、SBI証券が扱う約2600種類の投信や信託会社の遺言信託などの商品をそろえる。信託会社と新たな商品を開発し、取り扱い内容を充実させる。土日も営業し、資産形成セミナーのオンライン開催も予定している。
「高島屋が培ってきた顧客との信頼関係がある」。村田氏は金融事業の比重を高めていく上で、高島屋の強みをそう強調する。「新型コロナによって、余計な出費は抑え、豊かな人生設計に関することは出費を惜しまない“消費の二極化”が進んでいくと思う。信託商品などは顧客のニーズに沿った作りこみをしたい」と勝算を語った。
クレカ事業も見直し
「新型コロナでモノの売り上げが伸び悩む中、流通企業にとって比較的少ない投資で高収益を得られる金融事業の重要性はますます高まっている」。流通コンサルタント事業を手がけるムガマエ(東京)の岩崎剛幸社長は業界の潮流を語る。
もともと百貨店やスーパーは固定客の囲い込みを目的に、関連子会社などを通じ、自社店舗利用でポイントが付くクレジットカード事業などを手がけてきたが、「以前は本業の小売り事業が主軸で、金融事業は副業的な位置づけという事業者がほとんどだった」(岩崎氏)という。
だが、人口減少に加えて専門店やインターネット通信販売との競争が激化。流通事業は店舗スペースをアパレル企業などに貸し出す不動産事業の比重が高まるようになると、テナントの売り上げを手数料としても回収できるカード事業が収益事業として見直されてきた。キャッシングや定額のリボ払いの利息も安定収入となっている。
実際、新型コロナの感染拡大により、流通各社は大都市圏を中心に店舗が臨時休業を余儀なくされたが、丸井グループは営業利益が小売事業の3倍以上に達する金融事業が業績全体を下支え。令和2年3月期の連結決算は営業増益となり、いずれも営業減益に沈んだ大手百貨店各社とは一線を画している。
「ついで買い」取り込む
少子高齢化を背景に中高年からの需要が見込める金融事業は新規参入や競争の激しい「レッドオーシャンの市場」(高島屋の村田社長)だ。生き残りに向け、“後発組”といえる多くの流通各社が着目するのは、商圏が消費者の居住地周辺へと縮小しているという環境変化だ。
取り込むのは「買い物ついでに金融サービスを利用する」という客層だ。
セブン-イレブン・ジャパンは三井住友海上あいおい生命保険と連携し、6月から業界初となるコンビニエンスストアでのがん保険販売に踏み切った。イオンの商業施設と隣接するイオン銀行品川シーサイド店(東京都品川区)も、6月下旬の週末、「新規の個人客で住宅ローン相談が出てきた」(店長)と手応えを口にする。
また、流通系のカード事業はこれまで、ポイント特典などを受けられる店舗が限定され広がりに欠けていたが、消費行動が小商圏内で行われるなら「ポイント経済圏」を作りやすい。消費者も「身近にある店舗の多くで使えるポイントなら利用しよう」となる。
大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングは、百貨店やパルコなどの商業ビルなどで使えるグループ共通のポイントプログラムを計画する。東京・上野や心斎橋などグループ内の異業態店舗が徒歩数分の場所にあるほか、名古屋・栄は1キロ圏内に松坂屋、パルコなど8館に加え、新商業施設もオープン予定で「Jフロント経済圏」を確立する狙いだ。
グループのクレジット事業を統括する二之部守JFRカード社長は「これらの地域とは一緒にイベントを作って来た歴史がある」として、商店街との連携も積極的に進めていく意向を示す。「目指すは商業施設だけのカードではなく、街のカード。『この街に来たらこのカード持っていた方が得だよね』と思ってもらえる仕組み作りです」
モノやサービスにお金を払う消費行動が映し出すのは、消費者のライフスタイルや興味・関心そのもの。そんな金融サービス事業者にとっての“宝の山”を活用しきれていなかった流通業界。消費者の選別の目が厳しさを増す中、生き残りをかけての“脱皮”が始まろうとしている。(佐久間修志)