経済効果は年間34兆円 見本市のニューノーマルはどうなる
企業が新製品や新技術を披露する展示会や見本市が「新しい様式(ニューノーマル)」を模索している。世界で年間34兆円超の経済効果を生んでいるが、国内では新型コロナウイルスの影響で500件近くが休止、延期している。そんな中、緊急事態宣言後初となる大規模展示会が7月29日、大阪で開幕した。商品に触れ、対面で商談する集客イベントのため、入場制限を行うなど感染症対策を強化する。一方、コロナ禍を逆手に、オンライン化してこれまでとは異なる顧客や商機を開拓しようとする機運も高まっている。(藤原由梨)
中小企業にとって大きな商機
宿泊、外食産業界の企業が96社、175ブース出展する「関西ホテル・レストラン・ショー」(日本能率協会など主催)が7月29日から31日にかけ、インテックス大阪(大阪市住之江区)で開催された。日本能率協会によると、今春以降、国内初となる大規模展示会だ。
コロナ禍を受け、料理を配膳する搬送ロボットや非接触型の体温測定器などが展示されるほか、衛生管理にまつわるセミナーも実施。担当者は「中小企業にとって直接商品を見てもらえるビジネスチャンス。展示会は顔と顔を合わせて商談することが重要で、コロナ対策を徹底しながら開催していく」と話す。
展示場の同時利用人数が5千人を下回るよう、来場者は原則インターネット上で来場日、時間帯を事前登録した。看護師も会場に常駐した。
年々増加傾向 損失額は4兆円
国内で開催される展示会や見本市は年々、増加傾向にある。日本展示会協会(東京都)によると、平成21年に603件だった展示会件数は令和元年には764件にまで増加した。デジタル技術が発達し、あらゆるビジネスが大きく変化する中、1企業で完結したモノづくりやサービスは難しくなっている。情報交換や協業相手探しのために、展示会の果たす役割は大きい。国際見本市連盟によると、2018年に展示会産業が世界に与えた経済波及効果は34兆円超となった。
ところが、この活況に、コロナ禍が冷や水を浴びせている。同協会によると今年3月以降7月2日まで延期、中止となった国内の展示会は482件に上った。コロナ禍による直接的な損失額は試算していないが、国内最大の国際展示場で、東京五輪のプレスセンターとして使用予定だった東京ビッグサイト(東京都江東区)が来年11月まで利用できなかった場合の売上損失額は合計約4兆円と想定。市場規模は大きい。
出展経費不要のオンライン
一方、オンライン展示会への取り組みも進む。昭和27年から大阪で続いてきた日本最大級の文具・紙製品の展示会「文紙MESSE(メッセ)2020」(同協議会主催)は今年、展示場での開催は断念し、8月1日から1カ月間、インターネット上の特設サイト上で企業のPR動画や新商品を紹介している。事務局の池田文彦さんは「会場を借りない分、開催期間を長くできる。遠方からの出張費もいらない。オンラインの強みもある」と話す。
昨年は約80社が出展、2日間で約1万人が来場した。今回、会場費がかからないため企業側の出展料を無料にしたところ、昨年より多い約100社の出展が決まり、約3万の商品が紹介されることが決まった。「ウェブ上に公開することで、文具を使う人、子供から大人まで幅広い人に興味を持ってもらう機会になるのでは」と期待する。
昨年は幕張メッセ(千葉市)に約14万5千人を集めた国内最大の家電・IT(情報技術)見本市「CEATEC(シーテック)」も10月のオンライン開催に切り替えた。出展社には英語での説明を初めて義務付け、海外からの「来場者」もこの機会に増やしたい考えだ。
MICE(マイス)と呼ばれる国際会議・展示や学会の大阪への誘致を積極的に行ってきた大阪観光局は、業界に対する感染症対策ガイドラインを6月に発表した。田中嘉一・MICE政策統括官は「オンライン展示会は、即時性や情報量などで優れており、展示会でよりよい情報と出合う精度を高めるサポートをしてくれる」と意義を認めたうえで、「人と人との出合いで生まれるコミュニケーションの価値は変わらない」と従来型の対面の重要性を指摘する。コロナ禍を機に深化する展示会。「オンラインがリアルな展示会を補完する体制づくりが必要だ」と訴えた。