コロナで迫る変革 小林喜光氏、冨山和彦氏
新型コロナウイルスは日本企業の経営の在り方にも変革を迫っている。組織運営や技術革新の進むべき方向性について、規制改革推進会議議長の小林喜光氏と、多くの企業再生を手掛けた冨山和彦氏の経済界の論客2人に聞いた。
行政慣行打ち破る契機に
規制改革推進会議議長・小林喜光氏
--新型コロナウイルスの世界的感染から半年の今何が起きているのか
「サウジアラビア国営の世界最大の石油会社、サウジアラムコの時価総額が下がり、米アップルが世界一になった。データやデジタルが巨大な力を持つ象徴的な出来事で、今後も想像を絶する経済効果や変革をもたらすだろう」
「日本は過去のモノづくりでの成功体験を引きずった『ゆでガエル』状態でデジタル対応が遅れた。ぬるま湯から飛び出るきっかけとなる『天敵のヘビ』が新型コロナだった。(コロナ関連の給付金問題などで)遅れが広く認識された今からが勝負だ」
--規制改革推進会議としてのデジタル施策は
「規制や制度設計をデジタル社会にどう合わせていくかに重点を置き、新型コロナへの緊急対応として初診を含めたオンライン診療や遠隔教育を打ち出した。3カ月ごとに検証しながら利便性を見極め、(恒久化に向けて)進めていきたい」
「行政手続きは、デジタル対応でしっかりと横串が刺され、中央と地方を含めた全体として効率良くシステム化していくことが重要だ。押印や対面主義の見直しを含め、慣行を打ち破る契機にすべく規制を総点検する」
--コロナ後の日本企業に求めるものは
「コロナで経済が落ち込んでも二酸化炭素(CO2)排出量はそれほど減らず、尋常な対応では環境問題が解決できないと実感した。そこに日本の強みを発揮していく。コロナで人類は破滅しないが、気温上昇が続けば破滅すると認識すべきだ」
【プロフィル】小林喜光
こばやし・よしみつ 1946年山梨県生まれ。三菱ケミカルホールディングス会長。経済同友会代表幹事も務めた。
構造激変、破壊の時代続く
経営共創基盤CEO・冨山和彦氏
--新型コロナウイルス危機で経済の現状は
「輸出型の製造業大企業から地域の中堅・中小企業に至るまで全面的に業況は厳しい。収束まで長引きそうで、2020年下期もこうした状況は続くだろう」
--企業の対応は
「まずは現預金を手厚く保有しておくことが欠かせない。その上で事業の継続には組織や業務の変革が急務だ。感染症が収束しても、技術革新によって産業構造が激変してしまう。『破壊の時代』が続くということだ」
--求められる変革は
「表層的な変化では済まない。出張の取りやめではなく、オンラインの商談に切り替える。年功序列の人事制度も耐用年数が過ぎてしまった。人工知能(AI)の進化を踏まえ、管理職という職務の見直しも必要だ」
--地方はどうなる
「地方こそ本気で取り組むべきだ。新型コロナをきっかけに地方移住の流れが生まれるだろう。知見や技術を持った(大都市の)人材に門戸を開くことが重要だ。地方は変革に踏み出せれば伸びしろが大きい。日本経済の成長を牽引(けんいん)する原動力にもなり得る」
--政府への提言は
「失業者の大量発生を避けるため企業救済に危機対応の力点を置いてきたが、例えば観光業での雇用は企業の数ではなく利用客の多さで決まる。救済で生産性が低い企業が残れば、低賃金構造が固定化してしまう。事業譲渡など企業の新陳代謝を促しつつ、オーナーや従業員の生活を壊さないことに政策の重心を置き換えるべきだ」
【プロフィル】冨山和彦
とやま・かずひこ 1960年和歌山県生まれ。政府の産業再生機構に参画しダイエーやカネボウの事業再生に従事。経営共創基盤を2007年設立。最高経営責任者(CEO)。