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パナソニック津賀体制、9年目の正念場 成長の柱はどこに

 パナソニックのトップとして、創業家以外では最長となる9年目に入った津賀一宏社長が正念場を迎えている。2年前の創業100周年に打ち出した「くらしアップデート」をキーワードに最新技術を用いた新規事業に挑戦するものの、赤字事業を止血する構造改革や巨額投資を続けた車載事業の収益化は道半ばだ。新型コロナウイルスの感染拡大が生産や販売に影響するなか、新たな成長の柱の創出が求められており、難しいかじ取りを迫られている。(山本考志)

 グーグル出身者重用

 「製品が『サービス』とともに進化することを目指す」

 パナソニックのCTO(最高技術責任者)とCMO(最高マニュファクチャリング責任者)を兼任する宮部義幸専務執行役員は7月15日に開催されたオンライン発表会で、今後の研究開発戦略をこう力説した。

 戦略では、従来は購入時から機能が変わらなかった家電や産業向け機器が、スマートフォンなどのようにインターネットを通じてアップデートすることで購入後も機能が拡張されることを理想とする。背景には、平成31年10月に創業100周年を記念して開催したフォーラムで津賀社長が打ち出した「くらしアップデート」がある。

 津賀社長は製品の機能向上だけではなく、日々変化する価値観に合わせて機能を更新(アップデート)することの重要性を強調。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの先進技術を生かし、サービスを軸としたものづくりを目指すとした。

 新方針のもとに開発された製品やサービスの提供はすでに家電や住宅設備、産業向け機器など幅広い事業領域で始まっている。住居の統合プラットフォーム「HomeX」はクラウド上に蓄積した住人の生活情報をもとに、IoT家電や住宅設備を制御して家事などを支援。AIカメラ「ビューレカ」では店舗などの客の流れをデータ化して販売機会を分析したり、介護施設で見守り業務の負担を軽減したりするサービスを展開している。

 今年5月には米ソフトウエア会社に8億ドル(約860億円)を投資し、株式の20%を取得する資本提携を発表。両社の協業では、国内流通業などを顧客にサプライチェーン(供給網)の管理・運営をデジタル化して効率性を上げる事業を手掛け、パナソニック製の産業ロボットなどと組み合わせた顧客提案も想定する。

 また7月には、米IT大手グーグルのスマートホーム部門の元CTOで、昨年10月に招いた松岡陽子氏を常務執行役員に昇格させ、新設の「くらし事業戦略本部」本部長に据えた。各社内カンパニーから独立した本社直轄の別動隊という位置付けで、「くらしアップデート」を形にするために最新技術を駆使して新規事業を創出する司令塔役を担う。

 トヨタに主導権渡す

 研究開発戦略や外部人材登用で新規事業の創出を進めるパナソニック。ただ、業績の向上に直結するかどうかは未知数だ。

 大和証券エクイティ調査部の榮哲史アナリストが「IoTやAIはライバルメーカーも力を入れており、くらしアップデートのコンセプトでは差別化が困難。ソニーなどと比べると会社としての強みが分かりにくく、成長を牽引する事業が見えてこない」と指摘するなど、厳しい見方をする専門家は少なくない。

 7千億円を超える最終赤字を計上したパナソニックを立て直すべく平成24年6月に就任した津賀社長は、巨額赤字の最大の要因だったプラズマテレビ事業からの撤退などで業績を一時はV字回復させた。そんな津賀社長が次の成長事業と位置付けたのが車載だった。しかし車載事業は近年、不振が続いている。

 車載事業の目玉として資本提携した米電気自動車大手テスラ向けのリチウムイオン電池の量産にはこれまで2千億円以上投じてきたが、成果はいまだに出せておらず、車載事業は昨年度に466億円の営業赤字を計上した。今年4月には車載電池の販売を強化するためトヨタ自動車と合弁会社を設立したものの、出資比率はトヨタが51%と主導権を握られる形に。中国メーカーとのシェア争いも厳しさを増している。

 構造改革もまだ積み残っている。昨年は半導体事業の売却や液晶パネル生産からの撤退など事業の選択と集中をさらに進めたが、太陽電池事業で中国大手GSソーラーへのマレーシア工場などの売却が中国当局の外国送金に関する審査長期化などの影響で完了していない。赤字が続くテレビ事業の見極めも求められる。

 コロナで中国事業打撃

 多くの課題を抱えながらも、今年6月に創業家以外では3代目の山下俊彦氏と並び最長の在任9年目を迎えた津賀体制。そこに新たな難題として立ちはだかるのが新型コロナの感染拡大だ。

 中国・武漢から世界に広がった感染症は、中国国内に約80カ所の生産拠点を持つパナソニックのサプライチェーン(供給網)を直撃。製品の供給に支障が出たことに加え、自動車・航空産業への打撃で販売面への影響も広がっており、7月29日時点で今年度の業績予想を公表できていない。

 今後のパナソニックの業績について、大和証券の榮氏は「近年の構造改革で赤字事業の止血が進み、当面は新型コロナ禍のマイナス影響を吸収できるとみられるが、成長ドライバーとなる事業がない限り外部環境に業績が左右される状況は続くだろう」と分析する。

 6月に開かれた株主総会に議長として登壇した津賀社長は、新型コロナ禍について「100年に一度の難局だが、100年企業である自らを変える機会にしたい」と強調。感染対策に伴うテレワークなどの新たな需要をチャンスとしてつかみたい考えだが、業績の低空飛行が続く現状に株主からは津賀社長の経営手腕へ厳しい目が注がれている。