経済インサイド

なぜ衣料品だけが…破綻ドミノ危機のアパレル業界、長年はびこる悪しき慣行

 アパレル業界がコロナ禍に苦しんでいる。外出自粛などによる販売減で、経営が急速に悪化。すでにレナウンなどが破綻に追い込まれ、このままの状況が続けば「破綻ドミノ」は避けられないとの見方もある。しかし、販売不振は今に始まったことではなく、業界の構造的な問題は以前から指摘されてきた。人間の生活に欠かせない「衣食住」の中で、なぜ衣料品だけが産業として崩壊の危機にひんしているのか。 

 「供給側では大半が失敗者で、成功者はごく少数に限られている。現場では相当、危機感をもってやっている」。

 コロナ禍が収束する兆しが見えない8月4日、三陽商会の大江伸治社長は、総崩れに近いアパレル業界の現状に危機感をあらわにした。大江氏は、業績低迷が続く同社の「再生請負人」として外部から招かれ、5月26日付で社長となった。

 同社は現在、全店舗の1割強に当たる約150店の閉鎖をはじめとする構造改革に取り組んでおり、順調に進捗(しんちょく)しているという。しかし、スポーツ衣料大手、ゴールドウインの経営を立て直した実績を持つ経験豊富な大江氏をもってしても、「(コロナ禍で)想定外の部分はある」という。東京・銀座のビルを売却するなど、財務基盤を強化した上で改革を加速させる構えだが、目標とする令和4年2月期の黒字化達成は予断を許さない状況だ。

 苦境に陥っているのは同社だけではない。オンワードホールディングスやワールドも大量閉店や希望退職の募集に踏み切っており、百貨店を主戦場とするメーカーの不振が特に目立つ。

 もっとも多くの場合、コロナ前から経営は低迷していた。大手幹部は「(コロナ禍で)より苦しくなったのは確かだが、環境変化に対応せず、構造問題にメスを入れてこなかったのが問題」と自戒を込めて語る。

 衣料品に対する消費者の価値観は、ここ30年ほどの間に大きく変化した。

 アパレル不況といわれるが、実は消費量自体は昔と今とでそれほど変わっていない。

 ただ、商品単価は落ち込んでいる。総務省の調査によると、「被服及び履物」への支出(2人以上世帯)は平成30年で13万6000円。12年に比べ、3割以上も減少した。生活防衛意識を高める消費者は、必要なものにしかお金を使わず、スマートフォンなどへの支出を優先。「クールビズ」に象徴されるオフィスの軽装化や、社会進出の結果として女性が仕事着と普段着しか買わなくなったことも、単価下落に拍車をかけた。バブル期に何万円もする「DCブランド」の服が飛ぶように売れていたことを考えれば、まさに隔世の感がある。

 そうした傾向を追い風にしたのが、ユニクロやファストファッションと呼ばれるメーカーだ。製造から販売まで一気通貫で手掛けるビジネスモデルを展開。中国など人件費の安い国で製造し、中間コストをカットして収益力を高める一方、顧客の反応を商品企画に素早く反映させ、多くの消費者を取り込んでいった。

 さらに近年、第2の激震が業界を襲う。EC(電子商取引)の普及だ。安くて品質の良い商品が手軽にさらに入手しやすくなる一方で、メーカーの競争がさらに激化。リアル店舗の収益力が低下し、ファストファッションの経営すら脅かされるようになった。

 メーカーにとってより深刻なのは、業界には長年はびこってきた「作りすぎ」が一向に改善されていないことだ。

 市場が縮小しているにもかかわらず、多くのメーカーは商品を過剰に仕入れて販売し、売れ残りをセールで割り引く慣行を改めようとしなかった。そうした慣行が値引き拡大を招き、正価への不信や消費意欲の減退にもつながっている、との指摘は根強い。

 日本で販売される衣料品の実に半分は売れ残り、廃棄処分されているといわれる。コロナ禍による売れ残りの増加で、「内在していた供給過剰の矛盾が一気に現実化した」(ワールド)。

 三陽商会の大江氏も、悪しき慣行との決別を目指している一人。「秋冬の仕入れは徹底して絞った。欠品は覚悟の上だ」と改革への決意を強調する。

 コロナ禍が収束したとしても、どこまで客足が戻るのかは不透明。在宅勤務の定着などで軽装化が進み、衣料品への支出がさらに減るとの見方もある。いずれにせよ、メーカーの淘汰(とうた)が進むのは確実。ここ1、2年の間に悪循環を断ち切り、新たなビジネスモデルを確立できるかが明暗を分けそうだ。(井田通人)