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「門外不出」のブドウで大阪産ワインをブランド化へ 復権狙う地元ワイナリー

 かつて全国一のブドウ産地だった大阪で“復権”を目指す地元ワイナリーと大阪府が、「大阪産ワイン」のブランド化に向けた連携を進めている。看板となるブドウは同府羽曳野市で約40年前から「門外不出」で育てられた未解明の品種。府の研究機関がワイナリーから権利譲渡され、新たな品種として国に登録を申請した。地元関係者は国内外にアピールする機会をうかがっている。(吉国在)

「大阪R N1」を使ったワイン=8月21日午後、大阪府羽曳野市(須谷友郁撮影)

 謎めいた品種

 「見るからに、ほかの既存品種と違う」

 今月11日、同市のワイナリー「仲村わいん工房」。登録審査の一環で調査に訪れた農林水産省知的財産課の職員はあるブドウの実を採取し、こうつぶやいた。

 調査の対象は「大阪RN-1」と呼ばれる品種。果肉まで赤黒いのが特徴で、ポリフェノールの一種「アントシアニン」を豊富に含む。漆黒に近い色のワインは、果実味と渋味のある重厚な味わいが売りだ。

 この品種は、ちょっと謎めいている。

 同ワイナリーで約40年前から栽培していたが、大阪のワイン振興に役立ててもらおうと、平成30年、品種登録に関する権利を府立環境農林水産総合研究所に譲渡した。その後、ブドウ作りからワイン醸造まで行う同研究所の施設「ぶどう・ワインラボ」が遺伝子を解析したところ、国内で赤ワイン用に使われている既存の約20種と異なることが分かったのだ。担当者は「山ブドウと何かをかけ合わせたようだが、詳細は不明」と話す。

 同研究所は昨年、品種登録に出願。外見や品質などの基準をクリアすれば来年3月にも認められる見込みという。登録後は製品化を目指し、府内のワイナリー限定で苗木を配って栽培地を広げるほか、醸造業者でつくる「大阪ワイナリー協会」(大阪市)などがブランド名を決める予定だ。

 大阪万博に照準

 国内のブドウ産地は山梨や長野が有名だが、同研究所などによると、大阪も80年以上前の昭和初期に、現在の柏原市を中心に全国トップの栽培面積を有したという。だが戦後の都市化に伴い、栽培地は減少。農水省が集計した昨年のブドウ出荷量は1位の山梨県で3万5200トンだが、大阪府は4320トンで7位だ。

 ブランド化は大阪産ワインの知名度アップとさらなる普及への一手で、業界は5年後に予定される大阪・関西万博に照準を定める。

 大正3(1914)年創業の「カタシモワインフード」(柏原市)代表取締役で、大阪ワイナリー協会会長の高井利洋さん(69)は「国内外の有数産地に負けない大阪のブドウで造ったワインを世界に売り込むチャンスだ」と意気込んでいる。

 ワイナリー300超

 国内のワイナリーは平成27年ごろから増加傾向にあり、ご当地ワインの認知度向上は、全国のワイナリーにとって課題といえる。

 国税庁によると、26年度まで180カ所前後で推移していた国内ワイナリーは27年度に280カ所、30年度に331カ所まで増えた。27年10月に国税庁は、国産ブドウ100%を原料とする国内製造の果実酒のみ「日本ワイン」と表示できる基準を告示。日本ワインの人気上昇が、ワイナリー増加の背景にあるとみられる。

 331カ所のワイナリーのうち、85カ所は国内最大級のワイン生産地・山梨にある。同県原産の白ブドウ品種「甲州」は、日本を代表するブランドに定着。甲州を使ったワインは国際コンクールで金賞を受賞するなど世界的評価も高い。

 長野県は25年にブランド化のための「信州ワインバレー構想」を打ち出した。ワイナリーと観光業、行政などが連携し、栽培や醸造に関する技術支援のほか、消費拡大に向けたPRを強化している。

 日本ワイナリー協会(東京)の中村由夫常務理事は「ここ数年で国内ワイナリーの数が一挙に増え、品質向上は目覚ましい」と評価し「まだ認知度は低いが、世界で認められる素地はできつつある」と話した。