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「窓越し」で涙…高齢者施設で、感染防ぎながら心つなぐ努力

 新型コロナウイルスは、重症化しやすいお年寄りにも感染が広がり、高齢者施設ではクラスター(感染者集団)の発生に神経をとがらせる日々が続いている。入所者が心待ちにしている家族の面会やレクリエーションにも制限がかかる状況だが、各施設や関係者は、さまざまな工夫でつながりを保つ努力を続けている。(加納裕子)

森沢祐治さん(左)が窓越しに話しかけると、妻の康子さんはうれしそうにうなずいた=大阪府四條畷市(彦野公太朗撮影)
「いけばな街道2020」の会場には、スターチスの花とともに、高齢者による生け花の画像とメッセージが展示された=京都市の京都芸術センター(フラワー・サイコロジー協会提供)

 窓越しやオンライン

 夫が窓の向こうに現れると、妻の顔がぱっと輝き、笑顔が広がった。「洗濯したもの持ってきた。あさって帰れるからな」

 8月下旬、大阪府四條畷市の介護老人保健施設「パークヒルズ田原苑」。くも膜下出血の後遺症があり、8日間のショートステイを利用している森沢康子さん(78)の面会に来た夫の祐治さん(82)がやさしく語りかけ、康子さんがうなずく。窓で遮られ声は聞き取りにくいが、祐治さんは「どうしているか気になっていた。顔が見られてよかった」とほほえんだ。

 同施設では新型コロナの感染拡大に伴い、2月27日から面会禁止の措置をとった。職員がはがきで本人の写真や様子を伝えるなど工夫したが、それでも会えない状態が続くことを懸念し、4月から建物の中と外で窓を隔てて会う「窓越し面会」と、ビデオ通話を利用した「オンライン面会」を開始した。副施設長の前原園代さん(65)は「1カ月ぶりに顔を見て、涙を流す人もいた」と振り返る。

 感染が小康状態になった6月からはビニールカーテン越しに会う「透明スクリーン越し面会」も始めたが、感染が再拡大したため現在は中止しており、窓越し面会とオンライン面会を併用している。他の高齢者施設でのクラスター発生を「あすはわが身」と恐れつつ、「心をつなぐ方法が必要」と前原さんはいう。

 母親の築山明子(はるこ)さん(92)が入所している磯辺園子さん(64)は「窓越しでも会いに来ると喜んでくれる。スタッフに感謝している」と語った。

 面会取りやめ過半数

 大阪介護老人保健施設協会は8月上旬、府内の介護老人保健施設188カ所に対し、面会に関するアンケートを実施した。回答した全施設が従来の面会方法をあらためており、24%が面会をすべて中止。オンラインの面会のみとしているところは34%と、過半数が感染予防のため、直接の面会を取りやめていた。

 直接面会を認める場合も全施設が面会時間を制限しており、10分未満が59%、10分以上15分未満が32%、15分以上30分未満が9%。面会者の人数も2人以下に制限しているところが91%にのぼった。

 同協会は「高齢者がかかると重症化しやすいため、ある程度はしょうがない。だがこの状態が長期にわたり、入所者も職員も疲弊している」と懸念している。

 SNSに生け花投稿

 施設内でのレクリエーションも制限される中、オンラインを使った新たな取り組みも。高齢者施設などで花を活用したセラピー「いけばな療法」を続ける京都市のNPO法人「フラワー・サイコロジー協会」は8月30日、各施設などからスターチスの生け花の画像をSNSで投稿してもらい、印刷して展示するイベント「いけばな街道2020」を京都市の京都芸術センターで開催した。会場の様子はライブ配信され、遠方からもみられるようにした。

 同協会によると、高齢者施設でのセラピー実施が新型コロナで制限され、生け花を楽しみにしていた人ができなくなったケースも。花言葉が「途絶えぬ記憶、変わらぬ心」であるスターチスに、つながりを感じてコロナ禍を乗り越えようという思いを込めて7月下旬から画像を募ったところ、全国から624枚の画像が寄せられたという。

 同協会理事長の浜崎英子さん(55)は「新型コロナでいろんな方が不自由な思いをしているが、施設に入居する高齢者は特に外出しにくく、家族に会えない人もいる。今回のイベントが社会との接点になれば」と話していた。