「経営再建はまだ1、2合目」 東芝・車谷暢昭社長、小林喜光氏に聞く
東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者と、社外取締役、取締役会議長を7月末に退任した小林喜光前経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)に、再建の評価や今後の戦略について聞いた。
--経営再建の進捗(しんちょく)は
「厳しく言えば、まだ1、2合目あたりだ。2022年3月期に2400億円の営業利益を目標にしているが、今の業績でみると5~7割かもしれない。東芝も含めて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を軸としたビジネスモデルを確立している企業はまだない。その意味ではまだ1~2割の到達だ」
--どう生き残りを図るのか
「インフラは各国とも多大なストックがある。今は老朽化が進み、データを使って強化する時期に来ており、大きなビジネスになる。われわれは社会インフラでトップシェアを持っている分野が多い。POS(販売時点情報管理)システムも国内6割、グローバルで3割のシェアがある。もともとの強みをサービスを通じて、もう1回提供することで東芝の勝ち筋がある。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の技術力は世界でもトップレベルで、AIの特許件数は世界3位だ。データ処理などデジタル分野の要素技術が多く、高度化したサービスを提供していきたい」
--新型コロナウイルスの感染拡大をどう見ているのか
「デジタル化による社会変革が一気に加速する。データを中心としたわれわれのビジネスも進む。当社も本社は7~8割が在宅勤務となったが、これから(外部との)交渉は8割がテレビ会議になると思う」
--今後10年はどういう世界になるか
「データ時代が本格化する。この10年はGAFAが独占したが、それは個人データが中心だ。今後の10年、20年を展望すると、インフラやPOSシステム、モビリティー、医療などのハードウエアからもデータが出てくる。現状はまだ10%ぐらいのデータしか使っていない。これからのデータ爆発に誰が対応し、プラットフォーマーになるのか。われわれは強い分野に集中して勝ちたい」
--データ以外の分野は
「ヘルスケア分野の技術が進化する。当社の技術だが、血液を採取すると、がんが『ステージ0』から分かる世界が来ると思う。注射でがんを撲滅する時代になるかもしれない。ゲノム解析ツールの『ジャポニカアレイ』の開発を進めているが、DNAや細胞レベルの精密医療が劇的に進化する可能性もある。温暖化の問題があり、二酸化炭素を排出しない技術が求められている。そこで東芝の技術で社会に貢献したい」
小林喜光・前社外取締役
「不正会計 原発事業が大きかった」
--社外取締役として5年にわたり再建を進めた
「正直、よくここまで来たと思う。米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の巨額損失、米半導体会社ウエスタンデジタル(WD)との事業売却をめぐる争い、PwCあらた監査法人との対立による上場廃止危機を『3大Wの悲劇』と呼んでいるが、何とかくぐり抜けた。今は欧米の金融資本主義の中で苦しみながら、一番先頭を走っている会社という印象だ」
--火中の栗を拾う形で、経営再建に取り組んだ
「ベンチャー精神が豊かな会社がどうして不正会計でおかしくなったのかと気になっていた。そんな時に(東芝の相談役だった)西室泰三さんが『会社を救ってほしい』と訪ねてきた。経済同友会の代表幹事になったばかりで一度は断ったが、同友会は行動する団体でもあり、日本を代表する会社が悪くなるのを放っておけなかった」
--再建の過程で最も印象に残っていることは
「WHが米連邦破産法第11条(チャプター11)を適用申請して海外の原発建設事業から撤退したことだ。数兆円レベルの隠れた負債があり、チャプター11を適用申請しなければ、大変なことになっていた。結局、不正会計につながったのは原発事業が大きかった。メモリー事業も大きな投資が必要で、それによって他の分野が疲弊していた。こういう大事件がなければ、政府絡みの原発や、巨額投資が必要な半導体は切れなかった」
--車谷社長の評価は
「果敢に株主と対話しながら経営を行っている。プロパーの考え方を変えながら、営業利益率5%以下の事業をやめるなど明確な方針を打ち出し、スピード感はピカイチだ。今後はマーケットと深く会話しながら、新たな事業を創出するのが最大の課題だ」
--電機業界が生き残るには何が必要か
「第4次産業革命は完全にデジタルの時代。今はモノとコトをハイブリッドするところに付加価値を見つけなければいけない時代となり、米国のGAFAが覇権を握ったが、次はリアルとバーチャルをハイブリッド化した時代が到来する。東芝はそこを狙う。日本企業はリアルの良いデータを多く持っている。それをバーチャルとどう組み合わせ、プラットフォームを作っていくか。それが今後の電機メーカーが進むべき道だと思う」