東芝・車谷社長「本格的なデータ時代に、われわれは強い分野で勝つ」
東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)がフジサンケイビジネスアイのインタビューに応じた。車谷氏は今後の東芝について「今後10年でデータ時代が本格化する。現状はまだ10%ぐらいのデータしか使ってないが、われわれは強い分野に集中して勝ちたい」と述べ、データサービス会社として勝ち抜く強い決意を示した。(聞き手 黄金崎元)
--経営再建中だが、今は何合目あたりにいると思うか
「厳しく言えば、まだ1、2合目あたりだ。3年後の2022年3月期に2400億円の営業利益を目標にしているが、今の業績で見ると、5~7割かもしれない。ただ、東芝も含めて総合電機モデルが終わり、各社がデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指しているが、世界的にビジネスモデルを確立している企業はまだない。そういう意味で、まだ1~2割の到達だ」
--不正会計が起こり、経営再建中だが、社内風土が変わった点や心がけていることは
「オープンマインドの外部人材を採用し、会社の中核に据えている。以前よりは風通しが良くなった。私は即断即決のタイプで、基本的に時間をかけないようにしている。オープンにすることで仕事のスピードも上がっている。ただ、ITサービス会社の架空取引などコンプライアンスの問題もあり、改革はまだまだ道半ばだ」
--総合電機モデルの終焉で東芝はどう生き残りを図るのか
「総合電機モデルは2000年代まで一部で有効に機能したと思う。家電はコモディティー(汎用品)化が進んだが、インフラは各国とも多大なストックがある。今は老朽化が進み、データを使って強化する時期に来ており、大きなビジネスになる。われわれはデータを活用し、もっと効率良く使いやすいようにしたい」
--過渡期の中にあるが、東芝の強みをどう生かすか
「社会インフラでトップシェアを持っている分野が多い。POS(販売時点情報管理)システムは国内6割、グローバルで3割のシェアを持つ。長年、機器供給してきたことで、インフラの世界でプラットフォーム化している領域は多く、これを使いたい。もともとの強みをサービスを通じ、もう1回提供することで東芝の勝ち筋がある」
「加えて、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の技術力は世界でもトップレベルで、AIの特許件数は世界3位だ。データ処理などデジタル分野の要素技術も多く、高度化したサービスを提供したい」
--インフラのプラットフォームでは独シーメンスや日立製作所などライバルも多い
「プラットフォームビジネスは誰が敵というものではない。データが集まれば集まるほど、使い勝手が良くなる。(複数の企業が共存共栄しながら発展していく)『GAFA』の大きなエコシステムもそうだが、日立やシーメンスと協業するビジネスだ。それぞれが強い分野で展開すればいい」
--社会インフラのサービス事業に集中するため、遠い事業を切り離し、近い事業でM&A(合併・買収)する可能性は
「ものづくりで営業利益率20%以上は出せない。営業利益率が高いサービスやデジタル、安定的なデバイスに集中して収益を出すことが重要だ。サービスやデジタルを大きくしないと、全体が上がらない。長期的には10~15%を目指したい。そのための投資を行いたい。M&Aは小ぶりや中ぶりを中心に既存事業に近く、良く知っている企業でないと成功確率は低い。サービスの畑を保有し、新しい技術や製造方法を持つ企業をM&Aする可能性はある」
--新型コロナウイルスの感染拡大をどう見ているか
「コロナの問題は長期化すると思う。デジタル化の社会変革がコロナを契機に一気に加速する。データを中心としたデジタル化が進み、われわれのビジネスを加速させる。当社も本社は7~8割が在宅勤務となった。これから(外部との)交渉は8割がテレビ会議になると思う」
--この10年で電機業界が大きく変わったが、今後10年はどういう世界になると思うか
「今後10年でデータ時代が本格化する。この10年はGAFAが独占したが、それは個人データが中心だ。今後の10年、20年を展望すると、インフラやPOSシステム、モビリティー、医療などのハードウエアからもデータが出てくる。現状はまだ10%ぐらいのデータしか使ってない。これからデータの爆発に誰が対応し、プラットフォーマーになるのか。われわれは強い分野に集中して勝ちたい」
--データ以外の分野は
「ヘルスケア分野の技術が進化する。当社の技術だが、血液を採取すると、がんが『ステージ0』から分かる世界が来ると思う。注射でがんを撲滅する時代になるかもしれない。ゲノム解析ツールの『ジャポニカアレイ』の開発を進めているが、DNAや細胞レベルの精密医療が劇的に進化する可能性もある。あとは環境エネルギーの考えが変わるかもしれない。温暖化の問題があり、二酸化炭素を排出しない技術が求められている。そこで東芝の技術が社会に貢献できればと考えている」