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国同士の力比べがみえかくれ 反ダンピング課税が覇権争いの道具に

 【経済#word】反ダンピング課税

 外国製品の輸出価格が計画的に自国での価格より安値に設定される不当廉売(ダンピング)をめぐる争いが過熱している。輸出攻勢を受けた国が被害を受けた産業を守るために通常の関税に上乗せする「反ダンピング課税」は、世界貿易機関(WTO)協定で各国に認められた権利だが、国内産業保護への過度な配慮に基づく不適切な事例もある。世界的に保護主義が強まる中、反ダンピング課税の正当な運用が重要性を増している。

 「不公正な安値輸入でお困りの方はお気軽にご相談ください」

 経済産業省のホームページには電話やメールでダンピングに関する相談を受け付ける窓口がある。

 反ダンピング課税は外国企業の不当な安値販売で被害を受けている国内企業を守るための措置だ。国内生産者からの申請(課税の求め)に対して経産省、財務省などでつくるチームが原則1年間の調査を行い、要件を満たしていることが認められた場合に発動される。

 化学肥料の原料やアルカリ電池の電解液などに使われる「水酸化カリウム」をめぐっては、国内業界が韓国と中国からの低価格の輸入品に苦しめられてきた。そこで業界団体のカリ電解工業会は反ダンピング課税を申請。政府が主張を認めた結果、2016年8月から49.5~73.7%の反ダンピング課税が両国産の水酸化カリウムに課されている。

 課税期間は来年8月までだが、同工業会は「課税期間が終了した場合、不当廉売された貨物の輸入が継続、再発する恐れがある」として今年7月、政府に延長を申請。経産省などが調査を始めている。

 WTO「韓国は違反」

 しかし反ダンピング課税がいつも正当だとはかぎらない。政府が自国産業を後押しするため、外国企業の安売りが合理的なものであったり、国内企業に損害が出ていなかったりするケースでも、反ダンピングと称した課税を行うことがあるからだ。こうした事例を解決するためにWTOによる調停の仕組みがあるが、紛争の解決は一筋縄ではいかない。

 圧縮した空気の流れを制御する空気圧伝送用バルブをめぐっては日本と韓国の対立がもつれにもつれた。

 韓国は15年、日本企業がバルブを不当に低価格で輸出したとして、11.66~22.77%の追加関税を適用した。しかし日本製のバルブは高品質な製品が多く、低価格帯の韓国製のバルブとは競合していなかったため、日本は韓国の措置はWTO協定違反だとして提訴した。

 WTOは小委員会に続き、最終審に当たる上級委員会も日本側の主張に軍配を上げ、昨年9月に韓国側の協定違反を認定した。「韓国産より高価格・高機能な日本製品の輸入が韓国産バルブの価格低下圧力をもたらしたのか、適切な説明がない」というのが判断の理由だった。

 しかし韓国は是正期限前日の今年5月29日、「顧客の評価の高い日本製品は韓国産より多少高くても売れるため、価格プレミアムつきで販売されているといえる。このプレミアム分を差し引くと、韓国産とも競合する」などと主張。8月18日の課税期間満了まで課税を続け、その後は延長しないことで課税をなくすという形を取った。

 日本政府関係者は韓国側の理解しがたい主張とその後の対応について、「メンツを保ちつつ、結果的にWTOの判断に従う形をとった」とみる。WTOの裁定は日本側の“完勝”だったが、この結果を得るまでの間に日本企業が支払った約20億円の関税負担は戻ってこない。

 覇権争いの道具に

 トランプ米政権に代表される自国第一の主張が世界に広がる中、反ダンピング課税の背後に通商関係を超えた国同士の力比べがみえかくれするケースも目立ってきた。

 覇権争いを続ける米国は17年2月、中国から輸入される道路舗装工事用の樹脂製素材、化学肥料として使われる硝酸アンモニウムに対し、相次いで反ダンピング課税の導入を決めた。

 また、中国は先月、オーストラリア産ワインに対して反ダンピング課税を課すかどうかの調査に入った。中国は豪州産ワインの最大の輸出先で、措置が導入されれば影響は大きい。豪州のバーミンガム貿易・観光・投資相は「非常に残念で当惑している」と反発している。両国関係は、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除などをめぐって悪化しており、反ダンピング課税が圧力の一環として使われた格好だ。

 国際貿易では外国企業が国内向けの販売価格を下回るような不当な安値で輸出をしかけてくるケースがある。国内企業は価格を下げれば、利益を出せない消耗戦に引きずり込まれ、価格を据え置けば販売は伸びす、市場を奪われる。

 そこで必要となるのが反ダンピング課税だ。外国企業の製品の価格に課税分が上乗せされれば、国内企業は適正な価格で販売できるようになり、利益を確保できる。反ダンピング課税は海外製品の量を押さえ込む効果もあり、国内企業のシェアは確保される。

 この結果、国内企業の生産基盤が安定し、付加価値が高い製品の生産など成長分野に経営資源を振り向けることができるようになるという。