各界で大規模化する自然災害への対応、鮮明に
第29回「地球環境大賞」は、気候変動が要因とみられる近年の大型台風などの自然災害などへの対応が各界で進んでいることを浮き彫りにしている。
グランプリにあたる大賞に選ばれたあいおいニッセイ同和損害保険は、自然災害発生時の被災状況などを市町村ごとにリアルタイムで予測、ウェブサイト「cmap.dev(シーマップ)」で公開している。シーマップは、台風や豪雨など気候変動を起因とする自然災害の大規模化・激甚化に対応、被災した建物の棟数や被災率をリアルタイムで予測することから、住民による避難行動や自衛隊などによる迅速な救助・支援活動に役立つ。エーオンベンフィールドジャパン(現エーオングループジャパン)、横浜国立大学との産学協同研究の成果で、過去の台風や地震のシミュレーションも表示する機能があり、地域の防災・減災活動に貢献できる点も高く評価された。
経済産業大臣賞は、熱を使わない独自のインクジェット技術を基盤に、最小限の環境負荷で社会に必要な機能を提供しているセイコーエプソン、環境大臣賞はライフライン途絶といった非常時でも自立的にエネルギー供給ができる住宅を実現した積水化学工業が受賞した。
また、農林水産大臣賞は間伐材を活用して木のストローの量産化に取り組むアキュラホームが、国土交通大臣賞には都心の緑地を活用し子供たちへの環境教育に力を入れている森ビル、文部科学大臣賞には岐阜大学がそれぞれ選ばれた。
ケミカルリサイクルによる低炭素・水素社会の実現に取り組む昭和電工が経団連会長賞、人工衛星「いぶき」シリーズで地球の温室効果ガス濃度の観測に貢献している三菱電機がフジサンケイグループ賞に輝いた。
秋篠宮皇嗣殿下のお言葉
第29回「地球環境大賞」の各賞を受賞された方々に心からお祝いを申し上げます。
本年は、COVID-19の状況に鑑み授賞式の開催が中止となりました。例年は授賞式の際、皆様が行われている取り組みについてお話を伺っておりましたが、本年は、そのような機会を持つことができないことを大変残念に思います。
過日、主催者から本年の大賞をはじめとする各賞の内容を伺いました。受賞された皆様の取り組みは、気候変動に伴う災害への対応や温室効果ガスの排出削減、廃棄物の再資源化など、地球環境の保全や変化する自然環境との共存に大きく寄与するものであり、ここに皆様のご努力にたいし、深く敬意を表します。
地球温暖化の防止や生物多様性の保全、廃棄プラスチックによる海洋汚染など、環境諸問題に対する人々の関心や意識が年を追って高まり、グローバルな広がりを見せる中、近年、気候変動が大きな要因とみられる自然災害が世界各地で数多く発生しています。本年もわが国では「令和2年7月豪雨」により、熊本県をはじめ全国各地で大きな被害が生じました。地球環境に関わるこれらの問題を考えるとき、私たちは自然環境の保全とともに防災や減災についての意識を高め、いかにして自然と共存し諸課題解決に向けた方途を探求していくか、その必要性を強く感じます。
今年で29回目を迎えた地球環境大賞は、環境を守りながら発展する産業や、持続可能な循環型社会の実現に寄与する製品・技術の開発など、環境保全の取り組みを顕彰することで、社会に貢献することを目的として創設されました。そして、その活動は産業界に始まり、自治体、学校、市民グループへと表彰の対象を広げ、環境保全と災害への対応に熱心に取り組む人々を広く顕彰することによって地球環境の保全、人々の環境意識を高めることに貢献してきました。
国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsやCOP21において採択された温暖化防止のための「パリ協定」が注目される中、今後とも、わが国は優れた環境関連技術や知識をもって世界に貢献していくことが求められましょう。その意味でも持続可能な経済・社会づくりのために、国際社会のモデルとなるような優れた実績を積み重ねていくことは、誠に意義深く大切なことと考えます。
最後になりますが、受賞者をはじめとする皆様が、これまでにも増して温暖化の防止など地球環境の保全や自然との共存に積極的に取り組んでいかれることを期待するとともに、その活動がより一層広がりを見せることを祈念し、お祝いの言葉といたします。
《審査委員講評》
■有馬朗人委員長〈武蔵学園長〉 昨今の気候変動が要因とみられる自然災害への対応や、プラスチックごみ問題への対処が各界・各層で一段と進んでいることが審査を通じて実感できた。「パリ協定」や国連の持続可能な開発目標(SDGs)を意識した活動も活発化している。大賞を受賞したあいおいニッセイ同和損害保険をはじめ、それぞれの企業・団体が「地球環境大賞」の理念にふさわしい取り組みをし、成果をあげていることは大変喜ばしい。こうした活動や姿勢が温室効果ガスの排出削減など地球環境問題の解決につながることを大いに期待したい。
■阿部博之委員〈日本工学アカデミー会長、東北大学名誉教授〉 大企業は環境対策に多面的に取り組んでおり、それが企業文化にもなっている。一方、資本金が5億円未満の中小企業も環境対策の課題や目標を絞っているところに特徴があり、成果につながっている。企業の大小にかかわらず、温暖化ガスの削減などに対し、より具体的に厳しい数値目標を掲げる傾向がうかがえる。企業以外では、高校の取り組みが印象的であった。各高校の独自性を発揮し、生徒の一体感のある意識に基づいて、目標に取り組んでいる姿が見えてくるようである。
■茅陽一委員〈地球環境産業技術研究機構理事長〉 企業の活動ではリサイクルに関連したものが目立った。大企業の場合は全体の組織を総合システムとして効率化・省資源化しようとする動きが多く、望ましい方向として好感が持てた。大賞となったあいおいニッセイ同和損害保険の試みは、実時間で自然災害予測を行おうという予測システム構築で、自然災害防止の有効な方策開発という実学的な意味で高く評価できる。一方、大学・学校・市民団体の応募は本年度は小粒なものが多く環境賞対象候補としてはやや物足らないものが多かった。
■黒田玲子委員〈東京大学名誉教授、中部大学特任教授〉 2019年は自然災害の多発で、多くの犠牲者が出て、今後も増えると考えられる災害対策に関した応募が目立った。例えば、豪雨被害の要因として森林の保全不備が大きく取り上げられたが、国産の木材を活用することで森林保全につなげようとする林業と結びついた取り組みが複数あった。大災害時のライフラインを考慮した住宅建設も目についた。全体的にはSDGsを意識した取り組みが浸透し、多くの企業、高校・大学・市民団体などが自分たちのやれる範囲で創意工夫をしている姿に好感が持てた。
■末吉竹二郎委員〈世界自然保護基金ジャパン会長〉 審査を通じて実感したのは、優れた取り組みの中で自社の競争優位を維持するために活動やノウハウを秘匿するのではなく、積極的に公開し社会の共有財産として普及を促すという姿勢がみられ、公益性が高く大変素晴らしいと感じた。今後もその秀逸なCSR活動・環境保護活動を自社の取り組みに留めず、行政府や同業他社、一般市民や学校など多くのステークホルダーを巻き込むことで、それらの活動が相乗効果を生み飛躍的に普及していくことを期待したい。
■中村桂子委員〈JT生命誌研究館館長〉 2019年はSDGsの17の目標が企業内での日常の話題になり、大阪G20サミットでのプラスチック全廃宣言、地球温暖化が原因と考えられる自然災害の増大など環境という言葉につながる課題が急速に浮び上がってきた。ここで社会を変えていく必要性を感じ、企業が本来の活動を環境の面から考えることになる転換が明確になった年といえる。あらゆる分野がCO2削減、省エネ、自然志向という形で社会の転換に向けた動きをしている。これが全企業に広がっていくきっかけになることを願う。
■池田三知子委員〈日本経済団体連合会環境エネルギー本部長〉 今回の応募案件をみると、プラスチック代替素材の開発・使用や再エネの活用、国産材を活用した住宅・建築物の開発・普及に関するテーマが目立った。いずれも重要な課題だが、再エネに関しては非FIT、卒FITの取り組みを評価したい。経団連では気候変動・資源循環・生物多様性など、幅広い地球環境の課題を統合的に捉えながら、企業経営の重要課題の一つに捉えて事業活動を展開していく「環境統合型経営」を提唱しており、複数の地球環境問題への貢献を意識して取り組む企業の案件が多かったことも心強い。
※〈 〉内は2月28日の発表時のものです。