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税金・金融取引で“脱はんこ”…現場には戸惑いも 「電子認証だけでは…」

SankeiBiz編集部

 菅義偉首相が押印の原則廃止に向けて「すべての行政手続きの見直し方針をまとめていただきたい」と全省庁に対応を指示したことで、“脱はんこ”の流れは本格化した。デジタル化やオンライン化によって、税金の手続きや民間の商取引でも押印廃止の動きが広がるとみられている。ただ、デジタル化への移行には高齢者への配慮など課題もあり、金融分野で深く根付いた「はんこ文化」の改革は一朝一夕にはいかなそうだ。

 きっかけは、河野太郎行政改革担当相の発言だった。「ただはんこを押したという事実だけが必要なケースの場合、すぐにでもなくしてしまいたい」。9月23日のデジタル改革閣僚会議の初会合で河野氏がこう発言したと報じられると、SNSでは「ほんとにハンコなんていらない」「これは前進だ」と賛同する声が一気に広がった。河野氏は翌24日、行政手続きで印鑑使用を原則廃止するよう全府省に文書で要請。新型コロナウイルス感染拡大によるテレワーク(在宅勤務)が広がる中、押印のためだけに出社せざるを得ない状況を「非効率」と感じていた国民も少なくなく、“脱はんこ”の流れが加速した。

“脱はんこ”と表裏一体のデジタル化には課題も

 さまざまな“副業”が広がった今、サラリーマンの確定申告も珍しくはなくなった。通常は勤務先の企業が年末調整の手続きをするが、給与以外の所得が年間20万円を超えたりした場合は確定申告の対象となるからだ。インターネットで手軽に物品の売買などができるようになり、気が付けば副収入が20万円を超えていたということもあるかもしれない。こうした確定申告や年末調整などで、押印が廃止される可能性もある。

 税務申告ではんこが不要となるのは歓迎すべきことのようにも思えるが、課題もあるという。税理士でもある立正大の浦野広明客員教授(税法学)は「不要なはんこの廃止には賛成だが、押印の代わりに電子申告のe-Taxへ完全移行するようなことになれば、対応できない人も出てくる恐れがある」と指摘する。e-Taxは国税庁が運営する電子申告・納税システムだが、すべての人がデジタル化の恩恵を享受できるわけではない。パソコンやスマートフォンの操作に慣れない高齢者にとっては「確定申告や還付申告ができなくなる」(浦野教授)というのだ。

本人確認の証 信頼性が高いのは…

 はんこ文化は日本の商慣習に深く根付き、企業の契約手続きや決済などでほとんど必ず使われてきた。浦野教授によると、はんこ・印鑑は正式には「印章」といい、法律では民事訴訟法と印紙税法に規定されている。契約は当事者の意思の合意によって成立し、実は、特段の定めがない限り、押印がなくても契約の効力に影響はないという。

 日本では本人確認の証として重要な意味を持つはんこだが、ネット上には「はんこも3Dプリンターで偽造できる」という声もある。少なくとも、100円ショップなどで売られている「三文判」よりも、筆跡で本人かどうか確認する署名の方が信頼性が高いとの見方だ。

 民間では“脱はんこ”が進んでいる。IT大手のヤフーは5月、取引先との契約の押印や署名を電子サイン(電子署名)に切り替え、来年3月末までに民間取引先との契約で「100%電子サイン化」を目指すと発表。はんこがなくても個人向けの口座を開設できたり、電子署名で法人融資の契約ができたりする銀行もある。電子契約であれば、取引企業との紙のやり取りの手間を省け、印紙代などの費用も削減できる。実務面でのメリットは大きい。

 しかし、大きな金額が動く企業と企業の契約ともなれば、話は別だという。

 「これまでの商慣習もあり、電子認証だけでOKというわけにはいかないという見方もある」

 大手銀行の関係者はこう打ち明ける。デジタル化、オンライン化によって“脱はんこ”が進む一方、サイバー犯罪やサイバー攻撃のリスクも増大する。商取引などで電子認証が導入された場合、“なりすまし”などの不正を防ぐセキュリティー対策の強化も必要になる。「契約や取引が真正なものかどうか。そういった観点でも、ただちに印鑑をなくしてよいのか検討していく余地がある」(大手銀行関係者)というのだ。

 昨年5月に転居申請や本人確認、手数料申請などをオンライン上で完結させる「デジタル手続法」が成立。その後、商業登記法も改正され、会社設立時の印鑑の届け出義務を廃止することが決まるなど、ペーパーレス化と“脱はんこ”は既定路線となっている。一方、法律で印鑑が有効要件となっている不動産登記や銀行印が必要な手続きは、今後も押印が存続するとみられているが、具体的な線引きはまだ示されていない。

 政府はマイナンバー(個人番号)カードの新たな活用も検討するが、マイナンバーカードの普及はあまり進んでいないのが現状だ。信頼性や安全性を担保しつつ、どこまで電子署名などに置き換えることができるのか。検討すべき課題はいくつもあり、浦野教授は「マイナンバーへと誘導するためだけの“はんこ廃止”にはならないようにしなければならない」と強調する。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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