アイペットHD・山村鉄平氏(1) ペット保険2位、ネット販売に強み
アイペットホールディングス・山村鉄平代表取締役CEOに聞く
ペット保険2位、ネット販売に強み
ペット保険を扱う業界2位のアイペット損害保険の純粋持ち株会社「アイペットホールディングス(HD)」が1日、設立された。旺盛なペット需要を背景に、保有契約件数が今年8月に55万件を突破するなど順調に増加する中で移行した。これを機に、市場が拡大するペット関連産業の中で保険とのシナジー効果が生まれる事業に進出。ペットを飼う上での社会課題の解決にも挑む。代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した山村鉄平・アイペット損保社長は「人を幸せにしてくれるペットとの共生社会を創る」とブランドの再構築(リブランディング)に着手、新たなステージに入った。
コロナで純増数更新
--足元の業績は好調と聞くが、新型コロナウイルス感染拡大の影響は
「在宅時間が長くなったことでペット飼育ニーズが高まり関連市場は拡大している。コロナ禍で生活スタイルが変わる中、ペットと過ごすことで心が癒やされるからで、ペットの重要性が改めて認識され、存在感が発揮された。渦中の4~6月期の月平均のペット保険の純増件数は過去最高の8380件に達した。7~9月期はさらに上回る勢いで、8、9月は1万件を突破した。2019年度の月平均は7073件だったので、自粛によるコロナ需要が発生したといえる。保険の継続率にも低下傾向は見られず、高い水準を維持している」
「このため4~6月期末の保有契約件数は53万3364件と、3カ月前に比べ4.9%増加した。また、8月24日には55万件を突破し、5万件増加スピードは約5カ月と過去最速を記録した。純増件数は19年度まで2年連続で業界1位。18年4月の東証マザーズ上場以降、経常収益(売上高に相当)は2桁成長を続けている。コロナ禍でも総じて上振れ傾向にある」
--ペット保険「うちの子」が支持される要因は
「第1に販売チャンネルの分散を確立したことだ。主軸であったペットショップなど代理店チャンネルに加え、業界でいち早くインターネットチャンネルを立ち上げたことが奏功した。さらに法人代理店チャンネルでは19年2月に第一生命HDと業務提携し、同社の営業職員を通じてペット保険の提供を開始したこともあって保有契約件数は右肩上がりを維持している。20年度に入ってから6対3対1の割合で推移している」
新規顧客開拓を念頭
--なぜネット販売に注力したのか
「チャンネルの分散は営業戦略上、理にかなっている。ペットの入手経路をみると、犬はペットショップでの購入が多く、その場で保険加入を勧められる。一方、飼育頭数が犬を上回る猫は拾ったりもらったりするのが大半で、飼い主は保険の存在すら知らされないことが多い。このためネットに強い方が有利と判断し、ネット販売に注力してきた」
「また、業界1位とは違うアプローチを取ることで新しい顧客層を開拓できるとも考えたからだ。つまり1位をベンチマーク(基準)にチャレンジしていない領域を攻め、顧客に新しい選択肢を提供することができた。2位なりの戦い方、後発の強みを生かした。これは販売チャンネルだけでなく、顧客ニーズに合った商品開発にも生かしている」
共生住宅など手掛け飼える環境を
--販売チャンネル以外の強みは
「第2に挙げられるのが営業体制だ。業界最多の16拠点(4営業部・9支店・3営業所)を整備し、密度の高い営業活動を展開できるようになった。提携する動物病院を増やしてきたことも寄与している。10月1日時点で5154の全国主要病院と提携しているが、精算窓口でアイペットの保険証を提示すると、治療費のうち保険で補償されている金額を除いた自己負担分だけ払えば全て完了する。費用を気にせず病院に連れていけるので契約者にとって利便性が高く、圧倒的な支持を得ている」
--市場動向は
「国内ペット保険市場は2桁成長を続けている。15~19年度の年平均成長率は16.7%だ。しかし飼育頭数に対する加入率は約10%にすぎない。100年前からペット保険が存在するスウェーデンは65%、英国は25%という状況からすると今後の成長余地は大きい。日本も20~25%に高まるはずだ。ペット保険市場の成長性に魅力を感じているのか新規参入するプレーヤーも多く、少額短期保険も含め16社(損害保険5社、少短11社)がひしめき、競争が激化している。われわれなど上位2社で7割のシェアを占めるだけに、事業が成り立たず赤字企業も少なくないようだ。大手資本を背景にしたM&A(企業の合併・買収)が起こっている」
異業種提携も検討
--こうした中で持ち株会社に移行した
「上場以前から持ち株会社化のビジョンを持っていた。ペット保険の加入率が低いということは、市場は伸びるということ。社会にも役立つ。04年の設立以来、ペットを家族の一員として暮らしている契約者が“うちの子”がもしもの時にも安心して治療を受けてもらえるようにペット保険の普及に取り組んできた。今後もペット保険事業を核に事業規模を拡大し、顧客の利便性向上を図っていく。同時にペット関連市場、つまり保険業の範囲を超えて違う事業領域にも進出していく。このためHDへの移行がセオリーだった」
--想定している事業領域とは
「子会社の設立には金融庁の承認が必要だが、ペット共生住宅の開発を手掛けたい。ペットを飼う上での障壁を聞くと、第1位は資金より住環境。今は飼っている犬の85%は小型犬で、大型犬は数%にすぎない。大型犬を飼いたい人はいるはずなのにマンションでは難しいからだ。飼える環境をつくれば駅から遠くても大型犬と一緒に住む人はいるはず。こうしたハードだけでなく、ソフトでもペットにまつわるクレーム対応やペットの防災訓練支援など暮らしに関わる身近なサービスの提供を通じ、ペットと快適に暮らせる環境支援などを考えている。また診療やしつけ、介護、移動手段などの分野で異業種や他業態とのコラボによるサービス提供も検討している」
「ペットを飼うと健康寿命が延びる、幸せな気分になるといわれる。子供が手離れした高齢者はペットが欲しくなるが、飼えないという。自分が先に亡くなるとペットはどうなるかと心配するからで、そのペットを引き取る仕組みをつくると高齢社会に貢献できる。ペットを飼う上での障壁、困っていることを解消するインフラを整備し、ペットと一緒に住むことが当たり前の世界を広げる。ペットと暮らすことは人間にとって、とても価値があると考えているからだ」
ブランド再構築着手
--リブランディングにも着手した
「HDに移行したのは、ペットを飼うことの社会的課題を解決したいし、そのためのインフラを整えたいと考えたからだ。そのためにリブランディングを実施し経営理念を作り直した。新たなステージに向け、グループ全体で同じ価値観を持ち、同じ方向を目指すためで、持続的成長とブランド価値向上に取り組む。新たな経営理念は『ペットと人とが共に健やかに暮らせる社会をつくる』とした。実は創業時のメンバーは今、一人もいない。私も入社8年目で、これまで創業メンバーの経営理念に対する思いをかみ砕いて走ってきた。しかし、どうしても思い入れは薄く弱い。そこで持ち株会社化を機にリセットボタンを押し、みんなで経営理念やビジョンなどを考え『新生アイペット』を拡大していくことにした」
--国連の持続可能な開発目標「SDGs」にも注力している
「ペット保険会社を中核として持つ当社はペットを大切な家族としてとらえ、ペットにも人間の子供と同じような環境をつくっていきたいと考えている。ペットを家族ととらえるわれわれにとって人間の貧困、健康、環境などの問題と同様に、ペットに関わる貧困、健康、環境なども重要な社会課題だ。そこで、それらを実現し持続可能な社会へ貢献するため、取り組むべきSGDsを独自の『ペットと人のSDGs』と定め、20年6月に公開した」
--具体的には
「一番大きなところは人間と同じような保険サービスを提供すること。高額な出費にも診療費の負担感を軽減し、安心して最善の治療を受けてもらえるようにする。ペット共生住宅の開発は環境での取り組みで、貧困問題では動物福祉活動への寄付などが挙げられる」
【プロフィル】山村鉄平
やまむら・てっぺい 立教大学経済学部卒。1997年安田生命保険(現明治安田生命保険)入社。2013年アイペット損害保険入社。14年取締役、16年代表取締役社長、20年10月からアイペットホールディングス代表取締役CEO(最高経営責任者)兼務。東京都出身。45歳。