陳列棚からほしい商品を手に取って無人のレジ前に立つと、商品と合計金額がディスプレイに表示され、ICカードをかざすだけで買い物が済んでしまう-。まるで近未来のSF映画に出てきそうな店舗が今月16日、JR山手線の目白駅(東京都豊島区)構内に誕生した。レジで商品バーコードをスキャンしていないのに、どうやって商品を識別しているのか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で注目される無人決済。人工知能(AI)技術を活用した最先端の買い物を体験した。
商品の認識精度は9割超
AIを用いた無人決済ができるのは、「KINOKUNIYA Sutto(キノクニヤスット)目白駅店」。JR東日本グループの高級スーパー「紀ノ国屋」初の無人決済店舗だ。自動ドアを抜けて店内に入ると「GO」と書かれた入場ゲートが設置されており、近づくと自動で開いた。売り場面積40平方メートルほどの小さなスーパーだが、紀ノ国屋のオーガニックドリップコーヒーなどオリジナル商品も並び、品ぞろえは豊富だ。
AIは本当に商品を識別できるのだろうか。実際に商品を買って試してみた。おにぎりや弁当、ジュースの陳列棚の前で商品に手を伸ばしつつも商品には触れず、近くにあったコールスローサラダをさっとに手に取った。菓子が並ぶ棚では、歩きながらマヨネーズカレー味のおかきを手にして、そのまま「決済エリア」のレジ前へ。さしものAIも、こんな紛らわしい人間の行動までは検知できまい。
そう思ったのもつかの間、タッチパネル式のディスプレイには実際に手にした商品が正確に表示されている。内容を確認して誤りがなければ、そのまま交通系ICカードやクレジットカードで決済。支払いが終わると出口のゲートが開いた。
スーパーやコンビニエンスストアに設置されている「セルフレジ」では、買い物客が自分で商品のバーコードをスキャナーにかざして読み取らなければならないが、キノクニヤスットではそういった煩わしさはない。その手軽さは衝撃で、店舗のキャッチフレーズ「はいる。とる。でる。」の通りである。
購入した商品をよくみてみたが、ICタグ(電子タグ)が貼られているわけでもない。商品を識別するための専用の買い物かごを利用しなければいけないといった制約もない。にもかかわらず、なぜ正確に商品を認識できるのか。
「商品認識の精度は9割から9割5分。人の動き、モノの動きを見ているのです」
こう語るのは、システムを開発したITベンチャー「TOUCH TO GO」(タッチ・トゥー・ゴー)の阿久津智紀社長だ。店内の天井には30台のカメラが取り付けられ、陳列棚にもセンサーを設置。買い物客と商品の動きをリアルタイムで捕捉しているのだという。買い物かごを使わず、手に取った商品を持参したエコバッグに入れていくことも可能だ。
レジが無人であることで気になるのは万引き被害だが、自分のバッグや服のポケットに商品を入れたまま、決済を経ずに退店しようとしても、出口のゲートは開かない。商品補充などのために店内には必ず1人以上の店員を配置している。同店の坂井睦生店長は「30台のカメラが抑止効果につながっています」と話す。
コロナ禍での感染防止対策としても注目
スタートアップ企業を応援している「JR東日本スタートアップ」と、システムコンサルティング会社の「サインポスト」が合弁で設立したタッチ・トゥー・ゴーは、JR山手線高輪ゲートウェイ駅開業後の今年3月23日、AIによる無人決済のコンビニ「TOUCH TO GO」を開店。キノクニヤスットはタッチ・トゥー・ゴーが開発した無人決済システムの外部導入第1号店となった。
阿久津社長は「副産物的な影響ではありますが、非対面決済なのでコロナ禍で安全に買い物ができ、また従業員を感染から守ることにもつながるとして、多くの企業から問い合わせをいただいています」と明かす。レジを無人にすることで省人化、省力化を図るのが狙いだったが、昨今の情勢を踏まえ、店舗の従業員と買い物客の接触を避け、感染防止に寄与する技術としても期待が高まっているという。
キノクニヤスットの坂井店長は「ちょうど今の情勢に合ったシステムで、コロナ禍でも非常に有効であることが分かりました。開店直後はもう少しドタバタするかと思いましたが、おかげさまで順調なスタートを切っています」と無人決済システムを評価する。
商品の認識精度は90~95%と高いが、さらに精度を100%に近付けるため、AIが商品を混同しないように、商品と商品の間隔を少し空けて陳列するといった工夫もしている。キャッシュレスの店舗だが、決済時に「現金が使えない」と訴える買い物客もいるといい、坂井店長は「来年から現金も使えるように検討を進めています」と語った。
キノクニヤスットに導入された最新のAI決済技術。全国的な普及にはさらなるコストダウンや、保守メンテナンスなどの拠点整備といった課題も残っているが、人手不足解消の切り札としてだけでなく、コロナ禍での感染防止対策としても、大きな期待が寄せられている。