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発電所の経費を小売りも負担 電力の安定供給への新制度「容量市場」

【経済#word】「容量市場」

 将来の安定的な電力供給のために発電事業者が必要とする発電所の建設や維持管理にかかる費用を、小売電気事業者が負担する目的でつくられた新制度「容量市場」。ただ、9月に公表された、令和6年度に必要とされる発電所のための小売り側の負担額が高かったことから、小規模な新電力など一部の小売り側は電気料金を上げざるをえないとの懸念もある。これまで見えなかった負担の流れが可視化されたという側面もあるが、制度の安定化が急がれる。

国民負担増える?

 10月初旬。小泉進次郎環境相の大臣室に「みんな電力」など電力小売事業者13社のトップらが訪れた。容量市場についての要望が目的だった。

 13社を突き動かしたのは「容量市場の仕組みによる負担が続けば新電力の事業継続が困難になり、再寡占が起こり、長期的には電気料金の値上げが起こるのではないか」(みんな電力の担当者)という不安だ。

 13社の多くは再生可能エネルギーによる電力を取り扱っている。再エネ普及を担う小泉氏は容量市場の問題に触れ、「電力料金のアップになってかえってくる」と応じた。

 しかし容量市場制度を所管する梶山弘志経済産業相は定例会見で、容量市場について「国民への追加負担を意味するものではない」と反論。新制度の功罪をめぐり環境省と経産省は一触即発の状態となった。

発電設備を維持

 容量市場は電力の安定供給のため、発電事業者が発電所を維持するために必要な費用を、小売事業者にも負担してもらうための仕組みだ。卸電力市場では小売事業者が電力(単位はキロワット時)の対価としてお金を払う。一方、容量市場では発電事業者が発電所の発電能力(単位はキロワット)を維持することに関して前もって対価を払うイメージだ。

 電力の小売り自由化で電気料金に値下げ圧力がかかる中、発電事業者は発電所の新設や適切な維持管理の費用の回収が難しくなっている。このため小売り事業側、なかでも、発電所をもたずに小売り事業だけを行っている新電力にも発電所に関わる費用を公平な形で負担してもらおうという発想が元になっている。

 今回、容量市場の市場管理者となる電力広域的運営推進機関(広域機関)は、4年後の6年度に日本全国で使われる電力量を確保するために必要な発電所の発電能力を1億7747万キロワットと算出。発電事業者側は経営環境などを勘案したうえで、どれだけの価格でどれだけの発電能力を提供できるかを入札した。

 こうした手続きの結果、小売り側が発電事業者に支払う金額は出力1キロワットあたり1万4137円とされた。広域機関はすべての小売事業者から拠出金を集め、発電事業者に支払う。発電事業者は受け取った拠出金で、提供を約束した発電能力を確保するための発電所の新設や維持管理の費用を賄うことができる。

追加負担ではない

 しかしこの価格が、制度で定められた上限価格より1円しか安くなかったことが波紋を呼んだ。小売事業者側の拠出金額は総額約1兆6千億円に上り、それが電気料金に上乗せされると平均一般家庭で負担が500円上がると一部で報じられたことがきっかけだ。

 これに対して電気事業連合会の担当者は「1兆6千億円はお客さまの追加負担ではない」と説明する。

 小売り側には小売り事業と発電事業の両方を手掛ける大手電力も含まれ、1兆6千億円のうち8割ほどを負担する。ただ、大手電力はこれまでも発電所の維持管理にかかる費用を小売り事業の収益から負担してきた。電事連の担当者は「今回の制度では大手電力内での負担の流れが、市場を通して『見える化』されたものだ」と話す。梶山氏が国民の追加負担を否定したのと同じ趣旨だ。

 一方、残り2割の新電力の小売事業者の一部は容量市場の枠組みに組み込まれることで、新たな負担を迫られることになる。経営努力で賄えない場合は、コスト分を電気料金に上乗せする可能性も否めないというのが実情だ。

 将来の電力の安定供給に欠かせない容量市場だが、軌道に乗るまでには曲折がありそうだ。

海外価格、日本より安く

 海外では米国最大の電力市場であるPJMが2007年に創設され、14年からは送電事業を行う英・ナショナルグリッドが容量市場を設けている。ただし両者ともに発電事業者が受け取る価格は日本よりも安い。

 英国の場合、石炭火力だけでなく、ガスや洋上風力など多くのエネルギー源による発電所がつくられてきた。この結果、発電能力は余り気味で、容量市場の仕組みで発電事業者が受け取ることができる資金は1キロワットあたり2千円前後だ。

 一方、日本では原子力発電所の再稼働が進まない中、発電所事業者の発電能力の余裕は少なく、容量市場で決まる価格も比較的高い。ただしエネルギー市場に詳しいディー・エヌ・エーの松尾豪シニアマネジャーは「再エネ普及や原発再稼働などでエネルギー源が増えたときに、英米のような市場動向となる可能性がある」と指摘する。(那須慎一)