スポーツi.

興味が尽きないプロ野球“満員”実験

 □フリーランスプランナー・今昌司

 新型コロナウイルス感染症が日本全国に蔓延(まんえん)し始めてから、もう8カ月以上が経過しようとしている。しかし、新規感染者数は下げ止まらず、東京ではいまだ1日200人超という日が珍しくはない。そして、春の開幕が大幅に延期されたプロ野球では、シーズンが佳境を迎えつつある中、来シーズンへの対策を念頭に置いた一つの試みが行われた。

 ◆人口分布把握し対策

 現在、スポーツ興行などのライブイベントは、観客収容可能数の50%に入場者を制限しているが、それを最大満席までに引き上げたときの感染リスクや対策効果を検証する実証実験である。先月末から横浜スタジアムと東京ドームで行われ、その結果を、来シーズン以降の通常開催の可否判断に生かしていくという。もちろん、来夏に予定されている東京五輪・パラリンピックにも有効な参考データになるだろう。

 今回行われた実証実験は、会場の中と外の感染リスクの検証を主としている。会場内では、まず場内に設置されたカメラで人の流れを可視化し、計画通りに観客が動いているかを確認して、「密」の発生状況が検証された。また、スマートフォン電波をビーコン(小型受信機)で感知し、人の滞留状況もデータ化された。

 さらには、屋内球場である東京ドームでは、二酸化炭素濃度の測定も行われ、換気のタイミングや換気能力の具合も検証されている。会場外周では、モバイル技術を用いて、来場者の入場前と退場後の動態データが解析され、入場前や退場後の立ち入りポイント、周辺繁華街に立ち寄る人口分布を把握し、イベント終了後の効果的な感染防止や交通誘導対策の検討に活用されるという。最終的に出される結果については、プロ野球のみならず、全てのライブイベントを含めたエンターテインメントが楽しめる日常を取り戻していくために、興味が尽きないところだ。

 ◆ファンの意識改革

 大人数の集客や滞留があるスポーツイベントの会場施設には、観客収容規模に応じた「流れ」と「たまり」に対応し得る余白が必要である。ちなみに、余白というのは、余っている、ということではなく、余裕がある、という意味である。客席背後のコンコースエリアの幅員、エントランスロビーの広さなどのことだが、東京ドームでは、意外にロビースペースがない。入場口が全方位にあるからだが、人の滞留スペースが分散されることを念頭にした設計となっており、特定の場所に滞留が集中することが想定されていない。こうしたことも踏まえて、観客を意図的な誘導によって、人の流れを規制したり、逆につくり出したりしていく運営能力こそが、最良のリスク対策になる。

 感染症リスクに対応する最善策は、人に声を発することをさせないこと、手を接触させないこと、である。飛沫(ひまつ)感染を防ぐことが大事なのであるから。しかし、スポーツ観戦は、選手たちのプレーに興奮し、声を上げて喜びあうから楽しさも倍増する。座席間隔をどうしようが、そんな興奮状態では、飛沫を防ぐことはマスクをしていても無理である。つまり、観客の自制した行動に委ねるしか、感染リスクを低下させる方法はない、と私は考える。

 よって、今回の実証実験で得られた結果をもって、ファンに自制していくべき行動を明示して、ファン自身にそのことを理解してもらうのが一番の対策になるのではないだろうか。日本のプロスポーツの日常を取り戻すのは、試合運営者や試合会場の管理者ではなく、ファンの意識改革が鍵を握っているのである。

                  ◇

【プロフィル】今昌司

 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。