新型コロナウイルス感染拡大の影響で職場環境や働き方の見直しが進み、主要機能を地方に移転させる方針を打ち出す企業が相次いでいる。通信販売大手の「ジャパネットたかた」を傘下に置くジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)が12日、2021年冬をめどに主要機能を東京から福岡市に移転すると発表した。テレワーク(在宅勤務)が普及し、多様な働き方が求められている中、専門家は「生産性やクリエイティビティ(創造力)を高められるのかどうか。メリットとデメリットを考える必要がある」と指摘する。
消費地から離れるデメリットも
ジャパネットホールディングスによると、主要拠点の東京から福岡市に移転するのは、人事、経営管理部門のほかグループ会社のWEB制作などを担当する計12部門。主要拠点の東京に勤務する約300人の社員のうち約50人が異動し、福岡で新たに約110人の中途採用を実施する予定だ。
同社広報室は「東京でお付き合いのある方にご不便のないよう、東京にあった方が良いバイヤー部門などの部署は残る。(移転の)デメリットはない」としている。福岡市は“職住近接”のコンパクトシティ。東京に比べ社員の通勤時間も大幅に短縮できるうえ住環境も良好で、「東京でなくても十分、仕事ができる」(同社広報室)と判断したという。
9月には人材派遣大手のパソナグループが東京にある本社の主要機能を兵庫県の淡路島に移すと発表。営業、人事部門などの社員約1200人を2024年5月末までに段階的に移すとの大胆な計画が話題になった。リゾート地にサテライトオフィスを設けるIT企業も登場しており、コロナ禍で東京一極集中は企業にとってリスクになるとの認識が広まり、地方回帰の機運が高まりつつある。
ただ、ジャパネットはもともと九州を地盤とする企業だ。パソナは兵庫県立淡路島公園内にフィールドアスレチックなどのあるテーマパークを開設しており、本社機能を淡路島に集約することで社員の利用を促進したり、取引先を施設に招致したりして施設利用率を高め、相乗効果を図る狙いもあるとみられている。
ニッセイ基礎研究所の准主任研究員、佐久間誠氏は「本社機能を地方へ移転した方がいい企業もあれば、そうでない企業もある。本社機能を地方へ移転した場合、主要な消費地から離れてしまうデメリットがある。社員の採用も課題となる。コロナ禍が収束すれば、競争も激化していく中、新しいビジネスを生み出していくことの重要性が増す。地方移転によって生産性やクリエイティビティを高められるのかどうか、立証されていない」と指摘。「欧州では本社を地方に置く企業も少なくないが、日本企業はそこまで踏み切れていないのが現状。ジャパネットやパソナは特殊な例で、東京や大阪を地盤とする他の企業の地方移転が一気に加速するということはない」とみる。
コア・コンピタンスの重要性
デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれる企業のデジタル変革によってテレワークが浸透。オフィスに出勤しなくても、ビデオ会議システムなどでコミュニケーションを図ることができるようになった。だが、佐久間氏は「日本には『阿吽(あうん)の呼吸』という独特のコミュニケーション、文化がある。直接会って話すことに重きを置く日本では、テレワークが望ましくない業務や場面も多い」と分析する。
さらに、社員教育の課題も。マニュアル化によってテレワークが進んでも、業務の再現性は一定程度担保されるものの、「どうしてもマニュアル化できない業務もある。暗黙知的なものをどう伝えていくのか」(佐久間氏)という課題が残る。これまでオフィスが社員の会社に対するエンゲージメント(愛着)を形成し、「会社文化」を構築していた側面もあるという。
グーグルやアップルなどの「GAFA」と呼ばれる米巨大IT企業では、生産性やクリエイティビティを高めるため、テレワークではなく、いかに社員をオフィスに集めるかということに力点を置いており、オフィスに卓球台を置いたり、社員食堂を充実させたりしているという。
「世界経済 大いなる収斂」などの著書で知られるジュネーブ高等国際問題開発研究所のリチャード・ボールドウィン教授は、テレワークやデジタル化によって、「新興国の人が新興国にいながら、先進国の人の代わりにオフィスワークができるようになった」と指摘している。佐久間氏は「本社機能の地方移転では、会社のコア・コンピタンス(他にはない強み・核となる技術)は何か、何を地方へ移転するのか、何をアウトソーシング(外注)できるのか。全体的なプロセスの見直しと議論をしていく必要がある」と強調した。