線虫使うがん検査を完全自動化 1度で15種類のリスク判定
九大発ベンチャーのヒロツバイオ
今や日本国民の2人に1人が患うとされるがん。自治体などによるがん検診も推奨されてはいるが、「時間がない」などの理由で検診を受けず、気が付いたら、がんが進行していたというケースも。こうした中、九州大学発ベンチャーのHIROTSUバイオサイエンス(ヒロツバイオ、東京都千代田区)は、尿によるがん検査サービスで年100万人分の検査体制を整えた。
同社は、尿に含まれるがんの匂いを線虫がかぎ分ける性質を利用した「N-NOSE(エヌノーズ)」の検査工程を完全自動化した。これにより、検査能力は約50倍高まり、年100万人分の検査依頼に十分に対応できるようにした。これまでの検査では、線虫の洗浄、解析シャーレに線虫を配置、検体をシャーレに滴下、線虫の温度管理や撮像・行動解析などの検査工程のうち、一部を手作業で行っていた。
今年1月にサービスの提供を始めたところ、全国から受注や問い合わせが殺到。検査員1人当たり年1000件程度しか検査ができなかったため対応しきれなかった。そこで、同社は大和酸素工業(愛媛県松山市)と共同で線虫の自動解析装置を独自に開発。線虫がん検査の完全自動化を実現させた。
ヒロツバイオの広津崇亮社長は、九州大学大学院理学研究院助教だった2015年に尿からがんの有無を見分ける技術を論文として発表。この技術の実用化を目指し、16年8月に会社を設立した。「N-NOSE(エヌノーズ)」をがんのAX1次スクリーニング(選別)検査として位置づけ、20年1月から事業を開始。体への負担がなく、1度の検査で15種類のがんリスクを判定できる。
現状ではがんの種類の特定にまでは至らないが、がん種を特定するための次世代検査技術の開発も既に進めており、22年の実用化を目指している。
国立がん研究センターによると、17年時点で日本における生涯でがんに罹患(りかん)する確率は、男性で65.5%、女性で50.2%に達し、ほぼ2人に1人ががんを患うとされる。一方、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、がん検診の受診率はここ数年40%前後で推移。欧米と比べてほぼ半分の水準にとどまる。
新型コロナウイルスの流行でがん検診を見送るケースも少なくない。「手軽な1次検査としてニーズが高い」(広津社長)ことから、インターネットを使った検診受け付けも始めた。(松村信仁)
【会社概要】HIROTSUバイオサイエンス
▽社長=広津崇亮氏
▽本社=東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート22F
▽設立=2016年8月
▽資本金=25億6601万7000円 (資本準備金を含む)
▽年商=非公表
▽従業員数=約70人
▽主な事業=線虫および線虫臭覚センサーを利用したがん検査の研究・開発・販売
▽ミッション=独自の技術でがんが早期発見できる世界を作り、人々の健康と未来の安心を守る