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「はやぶさ2」成功を祈る日本の町工場 探査支える職人技

 

 小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの土壌の試料を採取し、6日に6年間の旅を経て地球に帰還する。5日にリュウグウの試料が入っているとみられるカプセルを地球上空で分離し、6日未明にオーストラリア南部の砂漠に着陸させる計画だ。生命の起源の手掛かりとなる可能性があるこのプロジェクトを支えているのは多くの日本の町工場で、関係者は祈るような気持ちで帰還の時を待っている。(松村信仁)

チタン合金ボルトを手作り

 特殊ねじの開発や製造を手がけるキットセイコー(埼玉県羽生市)。従業員20人ほどのこの町工場で作られる「六角穴付きボルト」は、はやぶさ2の本体にさまざまな機器を取り付けるのに使われている。約500本が使用されているが、ボルトの大きさは直径3~6ミリを中心に長さ数センチ~30センチとさまざまだ。

 特徴的なのはその材質。64チタン合金と呼ばれるもので、インプラント(人工歯根)などにも使われ、ゴルフクラブに使用されている純チタンよりも硬い。しかも軽くて壊れにくいという。

 ねじの製造はほぼ全てが手作業。手書きの図面を見ながら、長さ3メートルほどの棒状の材料を必要な分だけ切断したり、削ったりしながら、形を整えていく。

 最近のものづくりの世界では当たり前のCAD(コンピューター支援設計)やCAM(同支援製造)といったソフトウエアを使わないアナログな世界。若手従業員が一人前として育つまでには時間がかかるが、田辺弘栄社長は「育ったときは相当高度なスキルを持った職人になっている」と話す。初代はやぶさで活躍した先輩職人が若い従業員をマンツーマンで育成し、今回は若い職人が中心になって開発に当たった。

 キットセイコーは昭和15年の創業以来、大手航空機メーカーから特殊ねじを中心に数多くの部品の開発や製造を請け負ってきた。昭和45年に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」を始め、数多くの人工衛星の部品を担当している。

「あの興奮をもう一度」

 横浜市金沢区の住宅街の一角にある従業員30人ほどの下平製作所も初代はやぶさに続き、はやぶさ2の土壌採取装置「サンプラーホーン」と、試料が入ったカプセルを地球に送り出す「カプセル分離スプリング」のばねをつなぎ合わせる部品約800個を製作した。

 同社は約半世紀にわたり、航空機や人工衛星の部品を製造。はやぶさとの関わりは、平成9年に、取引先の大手航空機部品メーカーの担当者から「こんなものを作れないか」と図面を渡されたのがきっかけだった。

 その当時ははやぶさという名称ではなく、「MUSES(ミューゼス)-C」というプロジェクト名で呼ばれることが多く、川口伸児社長も「数ある受注案件の1つとの認識しかなかった」と振り返る。

 初代はやぶさが打ち上げから7年後の平成22年6月に小惑星イトカワの表面物質を持ち帰ってきたことは多くの日本人に感動を与えた。川口社長は「今年は暗いニュースが多かっただけに、リュウグウから試料を持ち帰って、皆さんとあの時の興奮をもう一度味わいたい」と笑顔を見せる。キットセイコーの田辺社長も「この種のミッションは最後がとても大事。ぜひ有終の美を飾ってほしい」と期待を語った。