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破格のドコモ「アハモ」が“台風の目”に 大手3社の料金横並びは崩れるのか

SankeiBiz編集部

 高止まりしていた携帯電話料金がついに値下げに動くのか。今月3日にNTTドコモが発表した新料金プラン「ahamo(アハモ)」は、大胆な価格設定で大きな注目を集めたが、9日にはライバルのKDDIとソフトバンクが割安ブランドへの乗り換え時にかかる手数料の無料化を発表。今後はドコモに対抗した料金プランも打ち出すとみられる。アハモを起点にした一連の動きについて、専門家は「まだ第一幕だ」とみる。

 各社が値下げに踏み切る

 「若年層を取り込みたい、というのが一番だ」。ドコモの広報担当者が本音を漏らす。アハモはデータ通信量20ギガバイト(GB)のプランで格安ブランド並みの2980円(税抜き)と、大手キャリアでは異例の価格設定で業界を騒然とさせた。さらに注目を集めたのが、インターネットのみで申し込みを受け付けるという手法。「若い人はオンラインにも精通している。フルオンラインによる販売店での対応コストの削減も、今回の価格が実現した要因の一つだ」(広報担当者)。

 これに対し、ライバルのKDDIとソフトバンクは、メインブランドと「UQモバイル」や「ワイモバイル」などの割安なサブブランドとの間で契約を乗り換える際の移行手数料の無料化を打ち出した。廃止されるのは、契約事務手数料とMNP(番号持ち運び制度)手数料。現在は両社とも3000円を徴収している。これらの手数料は昨年廃止された2年契約の解除料9500円を含めると最大1万5500円に上り、長年割安プラン移行時の障壁にもなっていた。アハモはドコモのメインブランドとして位置づけられ、移行は不要だ。このため、割安プランへの移行にかかる手数料については、大手3社とも足並みが揃った形となる。

 ただ、メインブランドのアハモについて、実態は「サブブランド」とみる専門家もいる。ITジャーナリストの三上洋(よう)氏は「3月にサービスがスタートして5月まではMNP手続きが必要など、実態はサブブランドだ。武田(良太)総務相の発言を受けて、元々サブブランドで考えていたものをメインに据えたのではないか」と指摘する。

 武田総務相は先月27日、KDDIとソフトバンクがともに傘下の格安ブランドで発表した3000~4000円台の新プランについて、「何の意味もない」と批判した。こうした反応を受け、ドコモは元々サブブランドとして準備していたアハモをメインブランドに変更した可能性があり、KDDIとソフトバンクが移行手数料を撤廃したのも「アハモ対策」だったというのだ。UQモバイルやワイモバイルとの違いは移行手数料の有無にあったが、「KDDIとソフトバンクが今回それらを撤廃した。これで、自社内の安い方のプランに乗り換えるとき、料金不要で移行できるという点で3社とも同じになった」(三上氏)。

 “高止まり”していた携帯料金

 きっかけは2018年8月、菅義偉首相から飛び出した発言だった。「あまりにも不透明で、他国と比較して高すぎるのではという懸念がある。4割程度下げる余地はある」。当時官房長官だった菅氏は札幌市内で開かれた講演会で、携帯料金の引き下げにこう意欲を示すと、値下げに向けた取り組みが一気に動き出した。

 昨年10月に施行された改正電気通信事業法で通信料金と端末代金の分離を義務化。スマートフォン端末を安売りして割高に設定した通信料で回収するという料金体系を改め、価格による競争を促進した。今年9月に菅内閣が誕生すると、その動きはさらに加速。武田総務相は着任早々、携帯料金値下げについて「100パーセントやる」と断言し、幅広い意見を聞くとして携帯電話事業者の代表らと積極的に意見交換をする一方、大手キャリア各社に対し圧力を強めてきた。

 実際、日本の携帯料金は世界的に見ても高水準にある。総務省が6月に発表した調査結果では、世界主要6都市のデータ容量20GBプランの料金を比較した場合、物価の高いニューヨークやパリを抑え、東京が8175円で1位(2019年)になっている。2GBと5GBのプランでは2位だが、パリやロンドンと比較すると2倍以上の価格だ。

 なぜ日本の携帯電話料金は高いのか。

 「日本の携帯電話サービスは世界でもトップクラスで質が高いため、(基地局の建設など)設備投資にコストがかかる。料金はソフトバンク参入時に少し値下げが起こった程度で、その後は大手3社のうち1社が改正すると他の2社もそこに合わせてしまうため、価格競争が起こりにくかった」

 ただ、料金の高止まりの背景には、日本のユーザー意識も影響しているという。三上氏は「本来、そこそこ安心して安く使いたいという人は割安のサブブランドを使い、多少のデメリットはあっても格安で使いたい人はMVNO(格安スマートフォンを手がける仮想移動体通信事業者)を使えば良いが、日本のユーザーは安心を求める人が多くメインブランドから移行しにくい。意識が安さに向いている人が比較的少ないことも要因だろう」と分析。ヨーロッパでは、安い料金設定の事業者にユーザーが移行するため価格競争が起こったが、日本ではインフラである通信に対する“安心”も強く求められ、結果的に料金の高止まりを招いたようだ。

 手続きや料金表示には課題も

 価格の引き下げが実現しても、依然として課題は残る。武田総務相は11日、移行手数料の無料化については「一定の成果」と評価しつつも「(移行に際して)本当に余計な手間やコストがかかっていないか、引き続き精査する必要がある」と実態を注視していく考えを示した。三上氏は割安プランに移行しない人の理由について「手続きが難しく、よくわからないという人が多い」と手続きの簡略化の必要性を指摘する。

 料金表示をめぐっては、9日にKDDIが発表したアマゾンジャパンの会員サービスが利用できる「アマゾンプライム」と、映像サービス「TELASA」のサービスの利用料を含んだプラン「データMAX 5G with Amazonプライム」で、家族割などの割引を全て適用した後の最安価格を提示したことで割引の適用条件がクローズアップされ、ネットでは「6カ月以上使った場合+1400円」「1年以上使った場合+1000円」など加算方式の表が出回り、批判の的となった。KDDI広報部は料金の見せ方について「誤解のないような料金表示というものに取り組んでいきたい」としており、今後は手続きの簡略化に加えて簡潔な料金表示も求められることになりそうだ。

 活発化する携帯電話料金をめぐる大手キャリアの動き。三上氏は「まだ第一幕。アハモは台風の目になるだろうが、ドコモが既存プラン値下げの手札を見せない限りは、他社も次の一手が打ちにくい。そこまで大きな値下げにはならないと見るが、こうした動きは携帯電話事業を活性化することにつながる。今後は顧客をどのようなサービスでうまく取り込めるかの戦いになるだろう」とみている。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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