経済インサイド

農産物輸出拡大へ日本酒、ブリなど重点品目 掛け声倒れ回避へ「あとはやるだけ」

 菅義偉(すが・よしひで)首相の肝いり政策の一つである農林水産物・食品の輸出拡大。輸出額を令和7年までに2兆円、12年までに5兆円に伸ばす目標の達成に向け、政府は11月末、「実行戦略」を決めた。日本が強みを持つ牛肉やブリ、日本酒などの27品目を「重点品目」として位置付けた上で、重点品目ごとに攻勢に出る国・地域や7年の輸出額目標を定め、輸出先のニーズを踏まえた「輸出産地」を育成する。重点品目の構成は、将来の見直しも視野に入れる。

 丸太やサバなど“落選”

 「国内の余剰を輸出するという発想を転換し、全ての事業者が、マーケットが求めるものをつくるという発想に立つべく改革を行っていく」。11月30日に開かれた政府の関係閣僚会議で菅首相はこう強調した。

 米国なら大豆やトウモロコシ、牛肉など。フランスならワインやチーズ-。日本は他の先進国と比べ、自国が強みを持つ品目が農産物・食品の輸出額全体に占めるシェアが小さいという弱点がもともとあった。

 今回、重点品目に選ばれたのは牛肉やブリ、日本酒のほかに、豚肉、鶏肉、牛乳・乳製品、リンゴ、ブドウ、イチゴ、茶、コメ、ホタテガイ、真珠、本格焼酎・泡盛など。これらの日本が強みを持つ品目が牽引(けんいん)する形で農産物・食品の輸出を拡大させる姿を描く。

 27品目が選ばれる過程では、丸太やサバのように候補に挙がりながら“落選”したものもあった。丸太の輸出は約8割が中国向けだが、中国で製材などに加工された後に、米国などに再輸出されている。政府は、日本で加工して付加価値を高めた上で米国などに直接売れば輸出額の増加が期待できるとして、今回は重点品目に入れなかった。サバは好不漁で輸出額が変動しやすいとして外された。

 共通するのは「(現状では)日本側の政策努力が反映されにくい」(政府関係者)という点だ。マグロやホヤも今回、選に漏れた。

 政府が実行戦略を決めた翌日の12月1日、自民党本部で、農産物・食品の輸出に関する会合が開かれた。農林水産省幹部は「将来的には、重点品目の見直しもありうる」と明言。一定期間が過ぎた段階で、重点品目ごとの輸出額実績や潜在性を見極め、入れ替えなどを検討するとみられる。

 牛肉、中国への再開が鍵

 重点品目に選定した27品目にはそれぞれ、ターゲットとする国・地域を設定。国ごとに7年の輸出額目標を定め、その達成に向けた課題や方策も列挙した。

 27品目の7年の輸出額目標を合算すると約8810億円。その中で最大の品目は、海外で「和牛」として人気が高い牛肉だ。元年の輸出額は297億円だったが、7年の目標は約5・4倍の1600億円とした。

 達成の鍵を握るのは、巨大市場である中国向けの日本産牛肉の輸出再開だ。日本で平成13年に牛海綿状脳症(BSE)が発生し、中国への牛肉輸出はこの年に停止。ただ、日本産牛肉は東南アジアのカンボジアを“抜け道”として中国に流れ込んでいるとされる。

 令和7年の牛肉の輸出額目標1600億円を国・地域別にみると、中国向けは400億円と最大の輸出先になると想定している。

 輸出再開に向けた協議は新型コロナウイルス禍の影響で大きく遅れている。農水省の担当部局は「現在は中国がわが国の食品安全システムを評価中だ。あらゆる機会をとらえて(協議を)加速させる」と話す。

 一方、コメやパックご飯などは元年実績の52億円から、7年に125億円と約2・4倍に伸ばす。日本のコメは冷めてもおいしく、すしやおにぎりに向き、外食や中食での需要開拓が期待できる。香港や米国、中国などで攻勢をかける。

 海外で「SAKE」として認知を広げる日本酒は、米国や中国、香港、欧州などで輸出額を伸ばし、7年には600億円と元年実績の約2・6倍を目指す。

 コロナの逆風は減衰も…

 農水省によると、今年1~10月の農産物・食品の輸出額は前年同期比1・0%減の7325億円。10月単月では前年同月比21・7%の大幅な伸びで、年前半からの新型コロナによる逆風は減衰してきた形だ。工業品など他の分野と比べれば健闘しているといえる。

 とはいえ、新型コロナはなお収束しておらず、楽観は禁物だ。感染再拡大のリスクが顕在化すれば、輸出先の国・地域の景気回復が遅れ、輸出額は下押しされる。海外でも顕著な「巣ごもり需要」を背景とした外食向けから家庭向けへの需要のシフトに的確に対応できるかが問われそうだ。

 輸出のための商談も、対面はいまだ難しい。ただ、新規の顧客開拓には現在主流のオンライン方式では限界があるとの声も多い。

 政府として決めた実行戦略を“掛け声倒れ”に終わらせないために、必要なことは何か。ある自民党農林族議員はこう話す。「あとはやるだけ、動くだけだ」

 菅首相が農産物・食品の輸出拡大の旗を振るのは、農林水産業を基幹産業とする地方の所得を増大させることが、成長戦略や地方創生につながるとみているためだ。そこには、人口減少の加速で国内市場が縮小していく中では、海外市場に活路を見いださなければ日本の生産基盤を守れないという厳しい現実もある。

 農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員は「日本の農産物・食品を海外市場に積極的に売り込むのはいいことだが、12年までに5兆円という目標は根拠が不明な上、現実的とも思えない」と指摘。その上で「輸出拡大が日本の農林水産業や食品産業にどのような効果を与えるのか、精緻な分析が必要だ」としている。(森田晶宏)