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苦境にあえぐJALの隠れた“助っ人” 受付業務をこなす「チャットボット」

SankeiBiz編集部

 新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワーク(在宅勤務)が拡大し、社員を支える「バックオフィス」改革の一環で人工知能(AI)を使った自動応答システム「チャットボット」を導入する企業が相次いでいる。チャットボットは「チャット」(対話)と「ロボット」の造語。Q&Aを習得したチャットボットが人に代わって答える自動対話システムで、業務の効率化が期待できるという。コロナ禍で業績悪化に直面している日本航空(JAL)は今年5月、人間に代わって受付業務をこなすチャットボットを”正式採用”した。

IT駆け込み寺の”新人受付係”

 「出社制限解除後に関すること」

 こんな質問を投げかけると、「出社制限後に関することですね。『出社した後にPCにログインできない』などを一覧にまとめています」といった回答が即座に返ってくる。社員が抱える悩みに答えるJALの「IT駆け込み寺」で導入されたチャットボットのやりとりだ。

 「これまでは対面で社員の問い合わせに応じていましたが、コロナ禍でそれができなくなりました。改善の余地はありますが、今のところスムーズにやりとりはできています」

 同社IT運営企画部の宮本哲マネージャーは、チャットボットをこう評価する。IT駆け込み寺はその名の通り、社内制度の問い合わせから「家からJALのネットワークにつながらない」といった“困りごと”にも対応する社員向けの相談窓口。東京・品川の本社ビルに設置されていたが、コロナ禍で在宅勤務が増えたことからビデオ会議システム「Zoom」(ズーム)を利用した「IT駆け込み寺Web版」の運用を始めた。

 対面窓口がZoomになったことで、本社のある東京から離れた空港などに勤務する社員も利用できるようになり、間口が広がった。一方、相談の順番を待つ人がZoomの「待合室」(待機室)にたまり、応対する担当者の割り振りが大変だったという。

 順番待ちをする相談者の受付係として白羽の矢が立ったのがチャットボット。今年2月からトライアルを繰り返し、当初は10月からの予定だったが、コロナ禍の影響で5カ月前倒しして5月に本格稼働させた。導入に携わったJALインフォテック(東京)の倉光由紀子副主管は「チャットボットを導入する前は、応対を待つ人を一人ずつ呼び込んでZoomのミーティングIDを発行しなければならず、時間がかかっていました」と振り返る。IT駆け込み寺で実際に応対するのは”人間”だが、チャットボットが相談者を前さばきすることで業務を効率化。受付1件あたり5~10分の時間短縮が実現したという。

 ITサポートデスクを担当する同社の戸島圭子主任は「社員が困っていることはたくさんあり、JALグループ内のことであれば何でも問い合わせを受け付けていますので、多くの相談がありました。チャットボットではより簡単に入力できるよう、選択式で質問を受け付けています」と語る。例えば、「システムにログインできない」といった問い合わせでは、パスワードを覚えているか、覚えていないかといった具合に、相談者が質問に一つ一つ答えていくことで、より的確な回答に近づくよう設計されている。

急拡大するチャットボット市場

 チャットボット国内最大シェアの「チャットプラス」(東京)によると、JALのようにバックオフィス改革でチャットボットを導入する企業が今年3~5月で倍増した。市場規模も急拡大しており、その利用目的も、コスト削減などの「守りのツール」から、社内コミュニケーションの増加、生産性向上といった「攻めのツール」に変化しているという。

 自治体での活用も広がっている。NTTドコモは横浜市と共同で、ごみの分別方法を案内するチャットボットを導入。「ペットボトル」や「フライパン」などと入力すると、適切な処分方法を表示。ごみ以外の言葉を入力した場合、偉人の名言を引用して答えるなど、遊び心のある回答も人気で、来年1月からは多言語対応の実証実験も始める。

 災害発生時に被災者がSNSに寄せる投稿をAIなどで分析し、迅速な情報収集や救助、避難などに役立てる取り組みが進む。無料通信アプリ「LINE」(ライン)は気象情報会社ウェザーニューズ(千葉市)と共同で、災害時にAIが住民からの問い合わせに自動で応対する「防災チャットボット」を開発し、運用。質問を入力すると、気象情報や避難所の場所、物資の確保など災害復旧や生活再建に必要な情報を会話形式でいつでも教えてくれる。

 JALの宮本マネージャーは「現状ではAIを活用した言語解析まではしていませんが、チャットボットによって基本的な情報の交通整理がうまくできるようになり、省力化につながっています」と話す。AIの進化によってはチャットボットが臨機応変に応対できるようになり、それこそ、優秀な"人材“として企業や自治体に採用される日が来るかもしれない。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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