テクノロジー

日の丸技術、6Gで「ゲームチェンジ」 産官学一体で先行開発目指す

 デジタル社会の基盤となる通信分野の国際競争で、「日の丸技術」が今年から本格的に主導権の奪取に動き出す。2030年頃の実用化を目指す次世代の移動通信システム「6G」の国際標準に向けた研究開発の取り組みだ。日本は商用サービスが始まった最新の第5世代(5G)移動通信システムの技術で欧米や中国、韓国などに後れをとったが、産官学一体のオールジャパンで中核技術の開発などに先手を打ち、巻き返しを図る。

 6Gは5Gと比べ、通信速度や同時に接続できる機器数が10倍、情報伝達の遅れは10分の1となり、消費電力も現在の100分の1になると想定される。また、衛星などを活用して海中や上空、宇宙などを通信エリア化する。生活や産業のデジタル化を推進し、社会問題解決につなげるインフラとして期待されている。

 総務省は昨年6月に6Gの総合戦略を取りまとめた。30年頃の実用化を見据えて25年に主要技術を確立し、大阪・関西万博で成果を世界に示す方針。新たに発足した、6Gの開発戦略を推進する産官学連携のコンソーシアム(共同体)が推進戦略に基づき取り組みの具体化を進め、海外への発信強化などに取り組む。

 コンソーシアムには大学、省庁、自治体なども含め、100を超える企業・団体が参加。会長には東京大学の五神(ごのかみ)真総長が就任し、副会長にNTTの澤田純社長や携帯大手4社の社長らが名を連ねた。

 1000億円国費投入

 昨年12月18日に都内で開かれたコンソーシアムの総会で武田良太総務相は6Gの早期実現に向け「今後5年間の集中開発期間で世界トップレベルの1000億円規模の国費を投入し、国際競争力を強化する」と意気込みを語った。

 また、昨年末には20年度第3次補正予算案で、5Gの次を意味する「ビヨンド5G」の研究開発事業約500億円を計上したのを機に 菅義偉首相が東京都小金井市の情報通信研究機構(NICT)を訪れ、6Gの実現に向けた研究現場を視察。その後、記者団に「研究開発を加速し、海外展開できるよう対応したい」と強調した。

 視察で首相は、サイバー攻撃や漏洩(ろうえい)を防ぐ量子暗号技術開発の進捗(しんちょく)状況を確認したほか、多言語翻訳技術を紹介するブースでは音声翻訳アプリを体験。「デジタル化に対応し、世界をリードしていける実感を得ることができたと述べ、日本が6G開発を主導することへの意欲を示した。

 実用化の10年も前からオールジャパンの取り組みを始めるのは、6Gの国際規格づくりをにらんでの動きだ。開発環境の整備などを通じて6G関連技術の特許を確保し、特許を利用した技術の国際標準への採用を狙う。国際標準に組み込まれれば、自社技術の市場が広がり、素早い製品投入が可能になるため、欧米や中国、韓国などに先行された状況を逆転する「ゲームチェンジ」が狙えるとみている。

 30年特許シェア10%

 5Gでは韓国サムスン電子や中国華為技術(ファーウェイ)などが特許数でリードし、日本勢の存在感は薄いが、6Gで日本は30年時点で特許シェア10%と現在のトップ企業と同じ水準を目指す。

 6Gに向けて、NTTは回線から端末までの通信や情報処理を電気信号を使わずに光だけで実現する「IOWN(アイオン)」という構想を提唱している。電気信号への変換をなくすことで消費電力を100分の1に減らせるという。セキュリティーの面では東芝やNECが強みを持つとされる量子暗号技術に期待がかかる。

 もっとも、6Gをめぐっては既に18年頃から米国や中国、韓国、北欧勢などが研究拠点の確保や戦略策定などの取り組みを始めるなど国際競争が激化しており、劣勢だった日本勢も戦略が問われる。

 NTTドコモを完全子会社化したNTTの澤田社長は、NTTとドコモの研究開発部門が一体化することで6Gの競争力が増すと説明。NTTドコモの井伊基之社長は「世界に勝つには英知を結集し、今までにない技術を生み出さなければならない」と強調している。