論風

ポストコロナへの備え 過剰債務の罠を回避せよ

 長期戦となったコロナ禍を生き抜くべく、多くの中堅・中小企業が債務を大幅に増加している。特に、コロナ禍以前から内部留保が薄い企業は、ウィズコロナ期の業績不振を赤字補填(ほてん)としての借り入れでしのぐ他に手立てはなく、事業収益力を大きく超過した債務を背負いつつある。今後、これらの過剰な債務が企業の手枷・足枷となり、さらなる事業収益力の低下をもたらす、いわゆる「過剰債務の罠(わな)」に陥る企業が出てくる可能性が高い。(経営共創基盤グループ会長・冨山和彦)

 中堅・中小企業も

 過剰債務を抱えた企業は十分な投資が行えないために設備は老朽化し、優秀な人材を獲得してのイノベーション投資も行えないため、劣化する古い事業基盤・ビジネスモデルのまま経営を強いられる。結果的に事業収益力が低下し、僅かな利益で利息返済が精いっぱい。従業員のモチベーションも次第に失われていき、さらに経営が悪化するといった状況に陥る。こうした悪循環を「過剰債務の罠」と呼ぶが、1990年代のバブル経済崩壊後の日本では、多くの企業が過剰債務の罠に陥り、それが長期的な経済停滞「失われた10年」をもたらした。当時の過剰債務企業は都市部の大企業が中心であったが、この度の危機ではローカル経済圏の中堅・中小企業も含め広範な企業が過剰債務の罠に陥る危険性が高く、ポストコロナ期の日本経済の回復の足を引っ張るリスクがある。過剰債務の罠を回避するために私たちは何をすべきか。

 個々の企業経営者として

 まずは本気の構造改革を実施することだ。平時では抵抗必至な不採算事業の撤退や人員の削減・配置転換など、危機下だからこそ実施が可能であるため、コロナショックを契機と捉え、抜本的な構造改革をすべきである。この構造改革が抜本的であるほど、大きな変容に対する組織の受容力は高まるため、一気呵成(かせい)に再成長に向けたコーポレートトランスフォーメーション(CX)までやり切ってしまう、すなわち会社の基本構造や事業モデル、必要な組織能力などを本質的に変容させる、これこそがポストコロナフェーズでの根本的な勝ちパターンである。

 しかしながら、構造改革にもCXにも相応の資金が必要であり、過剰債務の企業がさらなる借入を行うのは非常にハードルが高い。また構造改革の多くは特別損失を出し、自己資本を毀損(きそん)する施策を伴う。そうなると資本性の資金が必要だが、出し手は容易にみつからないし、後々、経営権やガバナンスに関して紛争の種を残すことになる。正しい処方箋を導き出すのは容易ではないのだ。多くの経営者にとって企業が再生状態に陥ることはそうそう何度もない。個人として生死をさまよう大病を経験する機会が何度もないのと同じ。こういった場面では日頃から修羅場を経験している、その道の専門家に相談することが重要だ。

 政府も制度面の対応急務

 他の先進国で一般的となっている過剰債務解消策の整備を進めていくべきである。欧米では多数決による私的整理など、さまざまな債務整理手続きが整備され、法的整理につきものの「倒産」というネガティブなイメージを回避しつつ、再成長に向けたCXモードにつなげる手法が普及している。ひるがえって日本ではいまだ債務整理には悪いイメージが染みついており、過剰な債務を抱えている状況にもかかわらず債務整理を実施できず、さらに事業基盤が傷んでいくケースが多い。また、中堅・中小企業の経営者は個人保証を入れていることが多く、債務整理を実施することで自己破産に追い込まれる事案が少なくない。コロナ禍を契機として個人保証の原則禁止や金融機関の多数決で私的整理を行える制度などを整備し、円滑に過剰債務を解消することこそが、地域企業がより持続的な成長とCXを実現するための近道なのである。

【プロフィル】冨山和彦 とやま・かずひこ 東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)修了。1985年ボストンコンサルティンググループ入社、産業再生機構代表取締役専務(COO)などを経て2007年経営共創基盤(IGPI)設立。パナソニック社外取締役。和歌山県出身。