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観光ベンチャー、コロナ禍で新事業に挑む 需要回復に期待 

 国内での新型コロナウイルス感染が確認されてから1年余りがたち、訪日外国人客激減などの逆風に見舞われた観光ベンチャーが新たな動きを模索している。起死回生の期待がかかるのは、自社の人材の能力を生かした新事業の立ち上げやコロナ禍の中でも需要が見込める他社の買収などの一手。感染再拡大の先行きは見通せないが、将来の観光需要回復を見越した事業展開に挑んでいる形だ。

昨年1月、関西空港に中国からの便で到着した観光客らの様子
アソビューの観光施設予約サイト(同社提供)

 「事実上、観光地として適さないとの烙印(らくいん)を押されたことになり、会社が存亡の危機に立たされる」

 令和2年2月14日、台湾政府が日本への渡航注意を呼び掛けた際、観光ベンチャーのワメイジングの加藤史子最高経営責任者(CEO)は緊張感を強めた。

 訪日外国人向けアプリ運営や無料のSIMカード配布といった従来事業だけでは乗り切れないと判断。3月末でフリーランスへの業務委託契約の解除を決断した。さらに在宅勤務の体制を整え、東京都港区にあった本社を同台東区のコワーキングスペースに移した。

 しかし4月の売上高は1月のわずか2%にまで激減した。そこで5月には、渡航制限で母国に帰れない約20人の外国人社員のスキルを生かした翻訳サービスを開始。さらに地域振興や観光に関する自治体からのコンサルティング受託事業も立ち上げた。コンサル事業はこれまでに約1億3千万円を売り上げ、会社の下支えに貢献している。

 そうした努力のかいもあり、11月に東急グループの持ち株会社である東急や電通グループ、住友商事などからの総額8億円の調達に成功。中途採用も再開し、新サービスの企画開発に乗り出した。

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 新型コロナ禍に伴う外出自粛で大打撃を受けた日本人向けの観光ベンチャーでも動きが出ている。

 観光予約サイトのアソビュー(東京都渋谷区)は12月28日、ダイビングやパラグライダーなどアウトドアレジャーの予約に特化した同業の「そとあそび」を買収すると発表した。

 コロナ禍に見舞われる中でも、いわゆる「3密」(密閉、密集、密接)を避けることができるキャンプや釣りなどの人気は根強い。山野智久社長は「人々が外に出たいという欲求はどんな時にも存在する。野外のレジャーには一定の需要がある」と、買収に踏み切った。

 アソビューはこのほか、在宅でも楽しめる観光地の体験メニューを販売するなど、当面の売り上げ確保に注力。12月に入って複数のベンチャーキャピタルなどから総額約13億円の調達に成功し、今回の買収につなげた。4月に予定されていた別の資金調達が事実上の白紙撤回となり、従業員の約4分の1にあたる25人を1年間、他企業などへ出向させる決断に追い込まれていただけに、買収の意義は大きい。

 新型コロナウイルス流行の収束のめどは今も見えていないが、ワメイジングの加藤CEOは「厳しい時代だからこそ、志ある人と一緒に日本の良さを世界に発信したい」と強調。アソビューの山野社長も「サイトの利用者も、観光地の皆さんもみんなが幸せになれる社会を作りたい」と、コロナ後の世界を見据えている。(松村信仁)