日本自動車メーカーは元気を取り戻せるか
最近、日本の自動車メーカーに元気がないように思える。昨年末に日本政府が「温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロを目標にする」と公表以来、約3カ月が経過した。この発表に驚いた自動車メーカーもあったと思う。しかし、そろそろ35年に向けての企業戦略や、車種ラインアップを見直しについて発表があるかと期待していたが全く音沙汰ない。一方、海外自動車メーカーは、コロナ禍の中にあっても元気なように見える。今回は内外自動車メーカーの「元気度」を考えてみたい。(日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎)
積極的に動く海外勢
日本で聞こえてくるのは、半導体不足による減産の話ばかりである。必ずしも日系自動車メーカーに限ったことではないが、それ以外に話題がないからであろうか。
一方、海外からの話は半導体の話題もあるが、違っている面もある。例えば米ゼネラル・モーターズ(GM)は今年に入り、1964年以来、約60年ぶりにブランドロゴを変更した。これまでの大文字から小文字の「gm」にするとともに、「m」の下側には下線を入れた。これはGMの基礎を成す「アルティウム」バッテリーを使った共通プラットフォームを視覚的に表しているとのこと。「エブリバディ・イン」というマーケティングキャンペーンとともに、電気自動車(EV)参入への本気度を示しているようだ。
また、中国では上汽通用五菱汽車(GM、上海汽車、五菱集団の合弁会社)が「宏光 MINI EV」を発売して話題となっている。最安値で約43万円、170キロ走れる長距離モデルでも約60万円で販売され、EV販売最大手であった米テスラを抜いて中国トップに躍り出た。
これについては、日本でも規格が違うからなどいろいろいう人がいるが、日本の軽自動車並みのサイズで、かつGMが初期から参画していることを考えると、中国の事情にマッチしたクルマだと思える。電動バイクからワンランク上の乗り物として、乗り換える人が多いのではないだろうか。
もう一つ元気な企業が吉利汽車である。筆者のこれまでの印象は、吉利は民族系企業であり、多品種を製造しているが、代表するクルマがなく、ブランドイメージが乏しいと感じていた。また、1つの車体で内燃機関(ICE)自動車、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)など複数を開発することもあり、これは“良いとこ取り”というより、むしろ“悪いとこ取り”となり、他社に勝てるクルマができないと懸念していた。さらに、今後大きな潮流となる自動運転について、あまり積極的でなく、取り残されているのではと思っていた。
しかし、今年に入り矢継ぎ早にアクションを起こしている。インターネット検索大手の百度(バイドゥ)とEVの合弁会社、百度汽車を設立、自動運転機能を搭載した車両開発を目指すとのこと。百度は、これまで130以上の企業と自動運転に関する「アポロプロジェクト」を運営しており、最も多くノウハウが蓄積されている。筆者が以前に北京南部の自動運転エリアを訪問したときも、アポロプロジェクトの自動運転車が多数走行していたのを覚えている。
ある意味、吉利汽車にとっては、これまで遅れていた自動運転に対して、一発逆転の戦略であるといえる。
また1月中、吉利はIT大手騰訊控股(テンセント)との戦略的提携を発表した。両社はスマートコックピットや自動運転、マーケティングをはじめとする事業のデジタル化や低炭素化の推進などで全面的に提携していくようだ。
中国配車サービス大手の滴滴出行も、世界初となる配車サービス専用EV「D1」を発表しており、車両は比亜迪(BYD)と共同開発し、製造は比亜迪が請け負うとのこと。
守勢で大丈夫か
このように、従来の自動車メーカーの枠を越えて、自動車とIT、ライドシェアなどの合従連衡が起こっており、新しい自動車領域を見据えてダイナミックな地殻変動が起こっているようにみえる。
それに引きかえ、日系自動車メーカーは、定款に定められた枠を出ようとせず、定款を変えてでも新分野に入っていこうという気構えが乏しいように見えてしまう。確かに激しく動くことが必ずしも成功につながるわけではないが、歴史をかんがみると、守勢を取り続けていて勝ったためしはないように思えてしまうのだが。
【プロフィル】和田憲一郎 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。63歳。福井県出身。