コンテストで商品開発活性化 企業や自治体、アイデア生かす取り組み
作品の腕を競うコンテストを、商品開発につなげる企業が増えている。マーケティングに生かせるだけでなく、デザイナーの獲得や応募者とのコミュニケーション向上によるファン化も期待できるからだ。コンテストを地域活性化に生かそうとする自治体もあり、コンテストを有効活用する取り組みが広がっている。
「若手デザイナーにとって、コンテストは世の中に出るきっかけになるので生かさない手はない。企業は若手の斬新なアイデアを活用して商品開発につなげることができる」
年間2000件強のイベント情報を紹介してきた丹青社のグループ会社、JDN(東京都台東区)の山崎泰取締役はコンテスト活用の利点を説く。
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■質高い応募作
有効活用する1社がシヤチハタ(名古屋市西区)だ。同社が2018年に再開した「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」は、商品化を前提に生活や社会を豊かにするプロダクトや仕組みを募集する。
13回目となった20年は新型コロナウイルス禍でも前回の778件を上回る1282件の応募があった。「作品のクオリティーはアップしている」(舟橋正剛社長)といい、審査委員をうならせる作品も多数寄せられた。
13回受賞作品の商品化は検討中だが、18、19年と再開後2年連続で計4作品が商品化されたことからも質の高さが伺える。
その一つが11回受賞作品から商品化された「筆印(FUDE-IN)」。日本製の筆ペンと美しい漢字一文字のはんこが一体化した「はんこ付き筆ペン」で、20年4月に発売した。漢字は「美」「夢」「愛」など、訪日外国人が好きな10種類を用意。11月からはお気に入りの一文字を作れるオーダー式も加えた。
12回から生まれた「わたしのいろ」は複数の色を織り交ぜた色鮮やかな朱肉。つける場所により押したときの印影が異なるため、「私のそのときの気分を表せる」と話題になった。20年7月に5種類計100個をテスト販売したが、6時間半後に売り切れた。SNS(会員制交流サイト)で評判となり、再販希望に応える形で8月に350個を売り出したが、今度は15分足らずで完売。「手作りなので一度に多く制作できない」中、9月には期間限定で受注生産を開始、約5000個の注文に応えた。
シヤチハタの山口高正広報部長は、SNDCを再開した理由について「オフィスで使う文具や印章も個人が気に入ったものを買うようになり、メーカーはエンドユーザーに直接訴えかける商品を提供しなければ生き残りが難しくなった」と指摘。その上で「モノという観点だけでなく、その周辺も含めて(どんなモノがほしいのかという)気づきをもらいたいと思った」と語る。
そのかいあって筆印のほかにも店舗で購入できるSNDC発定番商品も生まれたという。
新型コロナウイルス禍で「脱はんこ」の動きが広がるが、山口氏は「はんこを楽しく使うためのアイデア商品をコンテストを通じて生み出したい」と話し、新たな「はんこ文化」づくりにつなげる考えだ。
■若手の人材獲得も
一方、コンテストを地域活性化に生かしているのが、生活関連用品のものづくりが盛んな東京都台東区だ。開催31回を誇る「ザッカデザイン画コンペティション」を主催する同区産業振興課の月岡正子地域産業担当係長は「レザーグッズや帽子など日本有数の服飾雑貨の産地をアピールするのが狙い」と話す。
応募数は増えておりPR効果には手応えを感じているが、地場産業に携わる企業数、生産金額、従業員数は右肩下がりだ。同担当の紫冨田史和氏は「先行きを考えると、小規模でOEM(相手先ブランドによる生産)に頼る業態からの転換が必要。区として自社ブランドづくりを支援していく」と危機感を募らせる。応募者のアイデアを地元企業が生かすとともに、若手人材の獲得につなげる思惑もあり、コンペへの期待は大きい。
受賞者はメーカーと組んで実際のモノづくりを体験できる上、選考に参加する百貨店、松屋銀座(東京都中央区)で限定販売の機会も与えられる。30回コンペで「発想とウイットの効いたネーミングが決め手」となって松屋銀座賞を受賞した湯野拓也さん(受賞時は高校2年生)のポケットチーフ兼名刺入れ「Kouiumonodesu(こういうものです)」は限定販売された6点が全て売り切れた。
JDNが運営するコンテスト情報サイト「登竜門」に19年に掲載された情報などをまとめた「コンテスト白書2020」によると、コンテストへの応募理由は「趣味・いきがい・気分転換・腕試し」(全体の29%)が「賞金・商品を得るため」(30%)に続く僅差の2位となった。
同社の滝沢純チーフプロデューサーは「日本人にとってコンテストが身近に感じられている証拠」と指摘する。コンテストを主催する企業への愛着が高まり、知名度も上がる。マーケティングやブランディング、リクルーティングに有効なコンテストに魅力を感じる企業、自治体は増えそうだ。(松岡健夫)