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DX成功の絶対条件とは トップが果たす役割を知っていること

 DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が市民権を得てきた。解釈や使い方にばらつきが見られるものの、「ITを活用して、事業構造を変革する」というのが本質だ。ITの進歩により、事業の幅が広がった。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)を加える、製品の販売方法にサブスクモデルを加える、などの取り組みだ。

 必ずしも従来の事業を捨てるほどの変革をする必要はないのかもしれない。それでも、時代の変化に合わせて事業や業務を進化させることが求められている。革新的な技術を導入すればDXを実現できるというわけではない。最初に考えるべきことは、収益を獲得するための事業モデルだ。技術は事業モデルを実現するための道具にすぎない。もちろん、新しい技術をヒントにして、新しい事業を思いつくこともあるだろう。だが、事業モデルをどのようなものにするかを決めるのが先だ。

 こういった取り組みを支援する中では、経営トップの役割が極めて重要だと感じる。先んじて手を打つ会社ほど、トップが市場の動向や変化に敏感だ。社内外を含めて色々な方面から情報を収集して自分なりの仮説を立てる。自ら街を歩いて店員や顧客と話し、SNS(会員制交流サイト)やEC(電子商取引)サイトを使ってみる。現場担当者や若手社員との意見交換も欠かさない。

 自分と違う意見が出たときに、すぐに否定するのではなく、なぜそのように考えたのかを確認する。自分の意見が間違っているのであれば、適宜軌道修正する。情報を収集したら、それを事業のアイデアとして消化することが必要だ。「この技術を使ってみろ」「A社の取り組みを取り入れろ」といった、目的や事業内容があやふやな状態で指示を出すだけでは周囲を混乱させることになる。

 部下が良い案を持ってきても、自分自身が消化できていないので評価できない。「自分は使わない」「これまでのやり方と違う」と考えてしまい、せっかくのアイデアが捨てられる。揚げ句の果てに「わが社では検討が進まない」と嘆くことになる。

 付き合いの長いITベンダーやマーケティング会社に相談するのは有効な手段だ。だが、検討作業を丸投げするのは良くない。あれこれ悩むプロセスこそが重要なのであり、これを他社に依頼するのでは力がつかない。他社事例も参考にはなるものの、そのままうのみにはできない。企業によって事業環境は異なるので、同じやり方をしても成功するとはかぎらない。「ツールを導入したのだが、機能していない」「社外からアドバイスをもらうのだが生かしきれていない」というのは、よく聞く話だ。

 DXの立案・実現を推進する上では、技術に関する知識を持っておくことが前提となる。自分たちでデータ分析やプログラム開発をしないのだとしても、何ができるか理解しておかなければならない。仕上がったものが思い描いた通りか検証し、方向修正を議論できるようにしておく。「技術のことは分からない」とほうり出すのではなく、持っている技術について勉強して理解を深めなければならない。

 当然のことだが、例外的な使い方や障害への対応も含まれる。きちんと使われているかをモニタリングし、迅速に機能改善することも欠かせない。ここでも丸投げは厳禁だ。

 トップからすると一気に事業を推進したい。だが、最初の立ち上げに関わらず、日常の運用には労力がかかる。そして、この検討プロセスを大事にしたい。事業と社員が育つ良い機会だからだ。

 小塚裕史(こづか・ひろし) ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。