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大企業が「中小化」の動き 世間体より節税、資本金1億円へ減資企業相次ぐ

 業績が悪化した大企業が資本金を1億円に減資し、「中小企業」となる動きが相次いでいる。税制上の優遇を受けるための節税目的とみられる。有名な大企業であれば、かつては経営者が世間体を気にして、なかなか踏み切らなかった手法だ。だが、新型コロナウイルスの感染拡大という不可抗力による経営難を理由に、背に腹は代えられないと判断した事情もありそうだ。資本規模が会社の格や信用力を左右するといった、日本の企業経営者が抱いてきた概念の変化を指摘する声もある。

JTBの看板
スカイマークのロゴ
かっぱ寿司の店舗

 コロナ禍で業績悪化

 旅行大手のJTBは3月31日付で、資本金を現在の23億400万円から1億円へ減資する。2020年4~9月期に782億円の最終赤字を計上し国内店舗の25%を閉鎖するなど、同社の業績悪化はコロナ禍の直撃を受ける旅行大手の中でも顕著だ。JTBは「財務基盤の健全化を図る」ためと説明するが、その狙いは節税とみられる。

 法人税法上は、事業をする元手である資本金が1億円以下の場合は中小企業とみなされ、さまざまな税制優遇措置を受けられる。

 代表的なものが、資本金や事業活動の規模に応じて課税される法人事業税の外形標準課税が適用されないメリットだ。大企業ならば赤字でも外形標準課税は負担しなければならない。

 また、中小企業なら欠損金の繰越控除についても優遇を受けることもできる。赤字年度の次年度に黒字転換した場合、前年の赤字額の一部を当年の黒字と相殺できる金額が大企業よりも大きいため、支払う税金を大企業よりも圧縮できる。

 JTBのほか、中堅航空のスカイマーク、全国紙の毎日新聞社といった有名企業や、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトや居酒屋「はなの舞」を運営するチムニーなど、生活に身近な企業も相次いで減資を発表した。コロナ禍にともなう外出自粛などの影響が大きい企業が目立つ。

 15年にシャープ断念

 もっとも、経営再建中だったシャープが15年に減資を試みた際には、「あんな大きな企業なのに、中小企業のフリをするとは」との批判が相次いだ。日本総合研究所の小谷和成主席研究員は「大企業は社会への責任を果たすべきだという世間の目がまだ厳しかった」と指摘する。その結果、シャープは1億円への減資を行わなかった。

 当時は、資本金が少ない会社イコール信用できない会社と見なされる心理的な足かせも残っていたという。そもそも資本金とは、会社設立にあたって準備した運転資金の基礎だ。株式会社などでは、増資で株主から払い込まれたお金も含まれる。負債とは異なり、誰にも返済する義務のない資金だ。事業形態にもよるが、資本金の金額が大きいほど会社の財務上の余力を示すとみなされる。

 しかし、資本金の額が会社の格をあらわすという見方は少なくなってきた。資本金が少ないと金融機関から借り入れが困難になるケースもあるが、そもそも業績が悪化していれば銀行の目は厳しくなる。

 相対的に税制上のメリットが大きくなる。小谷氏は「『みんなで渡れば怖くない』という状態で、大企業としてのプライドが薄れてきている。今後もせきを切ったように減資する大企業は増えるだろう」とみる。

 JTBを含め、減資を決めた有名企業は多くが非上場だ。株主総会で一般株主らから「中小企業化」について批判を受けることがないことも、減資を経営判断するハードルを下げさせているかもしれない。

 ただ、これら大企業が受けようとする税制優遇措置は、もともとは中小企業を支援するためのものだ。減資は税から逃れるための“抜け道”ともいえる。

 大企業は、社員数などの規模に応じ、行政から受けるサービスの規模も大きくなっている。小谷氏は「コロナ禍が収束すれば、税金逃れ目的の減資による中小企業化について、税制の仕組み上の欠陥だと批判する声とともに、改正議論も出てくるだろう」と話している。(大坪玲央)