公示地価、都心部でほぼ下落一色も 住宅地「在宅」進み郊外が上昇
東京圏の住宅地では、新型コロナウイルスによる土地取引の減退で、公示地価は都心部でほぼ下落一色だった。一方で、郊外では上昇基調を維持する地点も多数みられ、都心部と郊外で対照的な結果となった。新型コロナ禍で郊外での在宅勤務という新しいライフスタイルが一定程度、普及したことを表したといえそうだ。
「東京23区は、雇用や所得が悪化したことや在宅勤務の進展もあり、人口流入が弱い状況にある」。三井住友トラスト基礎研究所投資調査第2部の坂本雅昭部長は、東京23区の人口がリーマン・ショック後の2009年頃と比べても大きく減少傾向にあると指摘。その理由として、景気の悪化に加えて在宅勤務が普及したことで、職住近接の志向が弱まっていることを挙げた。地価にもこうした傾向が表れており、23区の変動率は昨年の4.6%の上昇から今年は0.5%の下落に転じ、他の東京圏の政令市よりも大きくマイナスに振れた。
都心部の下落が鮮明な一方で、郊外は上昇地点も多くみられる。23区を除く都内で最も変動率の上昇幅が大きかった稲城市では、土地区画整理事業が続いており、小田急線や京王線など交通の利便性が高いこともあって新興住宅地の人気が高まっている。
また、居住したい地域の調査でも上位にくることが多い埼玉県川口市は周辺の戸田市や蕨市と合わせて県内でも上昇を維持した。東京都心に近い割に都内よりも家賃が安いことなどが人気の理由とみられる。同様の理由で川崎市も7区のうち5区で上昇するなど人気が続いている。
また、都心から離れた長野県軽井沢町では、コロナ禍で首都圏から移住する人向けの別荘地需要が集まり、近年の上昇基調が続いた。
ただ、既に通勤の利便性から人気だった郊外の住宅地が、コロナ禍で人気を後押しされたにすぎないという見方もある。
大手デベロッパーの三井不動産が高所得者層向けに実施したアンケートでは、「コロナ禍が住宅購入のきっかけになった」との回答は約3割にすぎなかった。不動産の専門家は「在宅勤務の普及で都心部からものすごく離れた地域への移住が進むかというと、それはないだろう。いざとなれば都心に通勤できる都心から少し離れた広い場所に住む傾向が続くのではないか」と話した。(大坪玲央)