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半導体安保日本の脆弱性露呈 ルネサス火災機に政府支援検討も実行力課題

 次世代技術に欠かせない半導体をめぐる世界の経済構造の脆弱(ぜいじゃく)性が改めて表面化している。自動車向け半導体で世界首位のルネサスエレクトロニクスの工場で3月に起きた火災が自動車メーカーに甚大な影響を及ぼすことは必至。その他の製品でも続く半導体不足は経済安全保障の課題を浮き彫りにした。こうした中、各国は自国の半導体産業の強化に乗り出している。日本はこれまで半導体産業の弱体化を見過ごしてきた側面もあり、復活への道のりは遠い。

 容易でない代替生産

 「半導体供給に大きな影響がでると危惧している」

 ルネサスが那珂工場(茨城県ひたちなか市)の火災から2日後の3月21日に開いたオンライン記者会見。柴田英利社長は苦渋に満ちた表情で声を絞り出した。

 火災は19日午前2時47分ごろ、先端品を担う2階建ての建物「N3棟」の1階で発生した。従業員がメッキ工程で使う装置から煙が出ているのを発見。すぐに消防へ通報したが、周囲に燃えやすい樹脂が使われていたことから、鎮火に約5時間半かかった。

 メッキ装置への過電流が生じたことが原因で、放火などの事件性はないという。ただ、過電流の発生原因や火災時に落ちるはずだったブレーカーが作動しなかった理由など、分かっていないことも多い。

 ルネサスは30日、火災で使えなくなった半導体製造装置が23台になったと公表。当初は焼損した11台のみをカウントしていたが、その後の調査で新たな装置の使用不能が判明したという。

 ルネサスは自動車の走行を制御する半導体「マイクロコントローラー(マイコン)」で世界シェア3割を占めるだけに火災の自動車産業への影響は深刻だ。

 しかも自動車向け半導体はメーカーや車種に合わせて作り込むため生産量が少なく、他社による代替生産も難しいという特徴がある。さらに自動車向け半導体の収益性がスマートフォン向けなどより低いことも、代替生産のハードルを高くしている。

 日本の自動車各社はルネサスの減産を理由に海外半導体大手に増産を要請しても、すげなく断られる可能性すらある。自動車では今後、電動化や自動運転の実用化で半導体使用量がさらに増える見通しで、ホンダの倉石誠司副社長は部品調達について「在庫の持ち方を含め、見直しが必要か検討している」と明かす。

 作りすぎ警戒が裏目

 半導体不足が起きているのは自動車向けだけではない。半導体製品の供給不足は昨年秋ごろからその他の分野でも目立っていた。

 米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染拡大で経済の先行き不透明感が増す中、半導体各社は「作りすぎ」を警戒して保守的な生産計画を立てていたとされる。ところが第5世代(5G)移動通信システムの導入や巣ごもりの浸透、テレワーク拡大などで、スマホやパソコン、ゲーム機の需要が予想以上に増加。さらにコロナ禍で落ち込んでいた自動車の生産が急回復し、半導体の奪い合いの状況が生じ始めた。

 しかも、今年2月中旬には米テキサス州を寒波と停電が直撃。韓国サムスン電子の半導体工場や自動車用半導体大手、独インフィニオンテクノロジーズの工場が停止し、いまだに生産を再開していない。

 半導体産業は優勝劣敗がはっきりしやすい。米調査会社ICインサイツによると、半導体企業の売上高トップ5社のシェアは2008年は33%だったが、10年後の18年には47%まで上昇。サムスン電子や台湾積体電路製造(TSMC)などの勝ち組による寡占化の進行が示された。こうした上位メーカーで生産トラブルが起これば、影響が広く波及していくのが世界の産業構造の現状だ。

 米中欧動き活発

 こうした中、各国政府は経済安全保障の観点から調達確保や自国産業保護に動き出した。

 バイデン米大統領は2月24日、半導体を含む4品目について100日以内に調達網の問題点を再点検する大統領令に署名。「米国を二度と品不足に直面させない」と強調した。

 米国は売上高ベースでは世界の半導体シェアの約5割を握るが、工場を持たない企業が多く、生産能力ベースだと10%強しかない。バイデン氏は中国を念頭に「価値観を共有できない国に調達を依存すべきではない」とも訴える。

 米国との対決姿勢を強める中国も、15年に策定した産業政策「中国製造2025」で25年の半導体自給率70%達成を目標に掲げ、巨額の投資を続ける。欧州連合(EU)は3月9日、域内生産する半導体の世界シェアを30年に2割に増やす目標を新たに発表した。

 日本でも経済産業省が24日、官民で供給網の強化を含む半導体・デジタル産業の戦略を議論する検討会を立ち上げた。

 1988年に半分超あった世界の半導体産業における日本のシェアは、2019年には10%まで低下。シリコンウエハーなどの素材や製造装置では高い競争力を死守しているが、半導体で売り上げ10位以内に入っている日本企業は皆無だ。梶山弘志経産相は「日本だけが取り残されることがあってはならない」と危機感をあらわにする。

 ただ、国の財政が悪化する中での資金支援には限界があるほか、これまでシェア低下を食い止められなかった事実を踏まえ、政府支援に期待する業界関係者は少ない。検討会は5月ごろに方向性を示す方針だが、内容だけでなく政府の実行力も問われている。(井田通人)