ランや自転車など趣味でスポーツを楽しんでいる人で、トレーニング内容は充実しているけれど、栄養面で意識しているのはプロテインだけという人も多いのではないだろうか。そんな一般アスリートに朗報となるかもしれない、AI(人工知能)を活用した自動献立提案アプリを味の素が開発している。同社がトップアスリート向けに培ってきた栄養計算や高度な食事サポートの知見を一般のアスリートに還元する新サービスで、スポーツの種目や減量といった個人の目標に合わせたメニューを提案する。β(ベータ)版でのユーザーテストを6月まで実施し、その結果を受けて年内の実用化を目指す。
「栄養計算」をアルゴリズム化
アプリの正式名称は「ビクトリープロジェクト 管理栄養士監修 勝ち飯 AI」。なにやらすごそうな名称だが、簡単にいうとユーザーが目標とするパフォーマンスアップに向けて、栄養面からサポートしてくれるボディメイク系のアプリ。ただ、このアプリのユニークな点は自身が取り組んでいるスポーツにおいてどうパフォーマンスアップしたいのか、AIが“相談”しながら献立をオーダーメイドしてくれるという点だ。
献立やレシピは、同社が手掛けるトップアスリートへの食サポート活動「ビクトリープロジェクト」に関わる管理栄養士が監修。同プロジェクトのサポート現場で実際に使用されている「栄養計算基準」をアルゴリズム化し、ユーザーがアプリ上で必要情報を入力するだけでAIが栄養基準を満たす献立を提案するという仕組みになっている。
使い方は、まず「選手」(ユーザー当人)と、選手をサポートする「調理する人」(親、パートナーら)とがアカウントを連携する。選手が性別、体重、体脂肪率などの基礎情報に加え、スポーツの種目(瞬発系、持久系、球技系など)や目標(減量、増量、現状維持)を選択し、登録すると、これらの情報からユーザーに必要な1日の目標エネルギー・栄養素が算出される。
調理する人は、選手の目標や体組成に応じてAIから提案される献立(10日分、毎食3パターン)から調理するメニューを選ぶことができる。その際、あらかじめ食べられない食材を登録することもできる。また、メニューデータベースには同社が運営するレシピサイト「AJINOMOTO PARK」のデータを活用し、各メニューに対してジャンル、季節、調理時間などさまざまな情報が紐づけられているという。
選手は日々の体組成をアプリに登録し、食事記録の際に「味」と「食べた量」をそれぞれ5段階で評価することで、どの程度の栄養価を摂取したかが判定される。さらにAIがそれらのデータをもとにユーザの好みの味や量を学習するため、使えば使うほど選手に最適化された献立が提案されるようになるという。
ちなみに1回の利用で「10日分」と設定したのは、調査の結果から1週間程度を1クールとして献立を考えられる家庭が多いという結果を受けたもの。昨今はコロナ禍で買い物に行く回数が従来より減り、週末のまとめ買いが増えている傾向があることから、最長で10日分の献立が入手できるようにしたという。ただし、必ず10日分の献立を選択する必要はなく、利用開始日以降10日分のうちでユーザーが必要な日だけの献立を選択することができる。
着想は中高生を食で支える親の声
このアプリを開発したのは味の素社内に新たに発足した「生活者解析・事業創造部」。ライフスタイルが多様化する中、“食のパーソナライズ”をテーマに掲げ、AIを活用した食に関する個人向けサービスとして誕生した。
アプリ開発のきっかけとなったのは、スポーツに打ち込む中高生を子に持つ親の声だ。開発にあたってヒアリングやリサーチを行った結果、趣味でスポーツを楽しむいわゆる一般アスリートや部活生の間で、食事面でのサポートプログラムを提供するサービスのニーズが高いことが判明。さらに、中高の部活生を子に持つ親を対象に聞き取り調査を行ったところ、子供を食事の面からサポートするためにインターネットや書籍で調べたり講習会に行ったりするものの、自分の子供に置き換えたときの栄養計算、献立の組み立て方などが分からないという声があったという。
現状はユーザーと調理する人の関係で使用することを想定しているが、一方でこうしたサービスは趣味のスポーツでセルフトレーニングを行っているビジネスパーソンからのニーズもありそうだ。
同社担当者の勝美由香さんは「簡単に自分に必要なエネルギー、栄養素量とそれらを満たす献立が何かを知りたいというニーズはあると想定しており、展開の可能性はあると考えている。一方でビジネスマンの場合は外食や飲み会が多い、自炊が苦手など毎日自宅で食事をする中高生と比較して食事のパターンがさまざまであることが想定されるため、そういった方にも対応した献立を提案することも同時に必要だと考えている」としている。
今後、テストを行う対象は部活動に取り組む全国の中高生と親135組270人を予定。対象となるのは、野球、サッカー、水泳、長・短距離走などの19種目で、国体レベルから趣味レベルまで幅広く設定している。6月まで実施し、ユーザーからのフィードバックを受けて今年中の実用化を目指す。利用料については無料を予定している。