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農機も脱炭素 各社開発競う水素トラクター研究、バイオガス発電推進   

 農業機械メーカーが二酸化炭素(CO2)を排出しない技術開発を急いでいる。クボタと井関農機が水素トラクターの研究を進めているほか、電動トラクターの開発にも力を入れている。ヤンマーホールディングス(HD)もバイオガス発電によるエネルギーの地産地消を推進している。農機は軽油を燃料とするディーゼルエンジンの搭載が主流。脱炭素の実現で環境意識の高い欧州などへの拡販も期待できるとみており、開発を加速する。

井関農機は2010年から愛媛大学と電動トラクターの共同研究を行っている。写真は試作車の走行試験 (同社提供)
クボタの電動トラクター(同社提供)

 革新的技術獲得へ

 クボタは脱炭素化が経営の重要課題ととらえ、2021~25年の5年間の研究開発費をその前の5年間に比べ約6割増となる4000億円にすることを決めた。

 脱炭素化に向けたトラクターの技術開発では、完全電動化にくわえ、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド、水素で発電する燃料電池などに投資する。

 農機は出力が10~200馬力以上と製品が多岐にわたり、作業内容によって求められる性能が異なる。研究開発本部長の木村浩人常務執行役員は「すべてを網羅するには、あらゆる可能性を排除せず、全方位で技術開発に取り組む必要がある」と語る。

 世界的な脱炭素化の動きは農機メーカーにとっても大きなビジネスチャンス。木村常務は「自社開発に加え、産官学やスタートアップとの連携で革新的技術の獲得に挑戦したい」と意気込む。

 井関農機もCO2を排出しない製品の投入を急ぐ。まずは環境意識の高い欧州で、22年から景観を整備する電動の芝刈り機や道路清掃機を試験販売し、24年に量産を始める。10年から愛媛大と電動トラクターの共同研究を行っており、その知見を生かして開発した。

 農作業で使用するトラクターは大きな馬力が必要となる。大型トラクターはモーターだけで対応するのは難しく、水素の活用も想定する。水素の供給体制を見据えながら研究を行い、投入をうかがう方針だ。

 脱炭素に向けた取り組みでは「スマート農機と組み合わせた環境保全型農業の提案・サポートで、農業全体のCO2排出量の削減に取り組みたい」(堀尾類治執行役員開発製造本部副本部長)とも話す。

 一方、ヤンマーHDは3月にカーボンニュートラル推進室を立ち上げ、東京とドイツ・デュッセルドルフに拠点を置き、脱炭素の世界的な動向を迅速につかむ態勢を敷いた。

 同社グループでは、子会社のヤンマーエネルギーシステム(YES)が廃棄物をメタン発酵させ、電気や熱エネルギーに変換し、資源循環させるバイオマス発電の普及に力を入れている。CO2削減だけでなく、メタン発酵した消化液を肥料化し、農地還元できる取り組みだ。

 燃焼後の炭を農地に

 YESは稲作で発生するもみ殻をガス化し、エネルギーに変換する小型発電システムの実証実験も行っており、燃焼後にできる「くん炭」は農地還元できるという。21年度中の販売を予定している。

 ヤンマーHDと子会社のヤンマーパワーテクノロジーは水素燃料電池船の開発も進めている。トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」の燃料電池と水素タンクを組み合わせ、3月から実証実験を開始した。25年までに実用化を目指している。

 農機メーカーは水素を燃料とする研究開発を強化しているが、昨年12月にトヨタ自動車や岩谷産業が中心となって発足させた「水素バリューチェーン推進協議会」にはクボタ、井関農機、ヤンマーHDの3社も参加している。水素社会の実現には供給コストやインフラの整備などの課題がある。3社もバリューチェーンの構築に貢献し、同時に研究開発も行いながら、農業分野の水素活用を推進する。

 農林水産省によると、18年度に農機などの燃料燃焼によって発生したCO2は約1670万トンと、日本の農林業全体の3分の1にのぼる。政府が30年度の温室効果ガス削減目標を13年度比46%に引き上げたこともあり、農機各社は対応を急ぐ。(黄金崎元)