大学に広がるデータサイエンス教育、IT人材需要で学部新設 指導者不足が課題
膨大なデータを解析し、幅広い分野に革新をもたらす「データサイエンス(DS)」が大学教育に広がっている。少子化に伴う学生争奪が厳しさを増すなか、政府が成長戦略として専門的なIT人材の育成を打ち出したことを契機に、大学側も受験生確保の「看板」に位置付けている。ただ、現状では授業を担う指導者が圧倒的に不足しており、普及の足枷(あしかせ)となっている。(玉崎栄次)
政府戦略が契機に
政府が一昨年に策定した「AI戦略」では、毎年約50万人に上る全ての大学・高専生に、事象の相関関係を数量的に表す「相関関数」や標本抽出などが使われているデータの読み解き方などの初級レベルのスキル習得を目標に掲げた。そのうち半数に応用レベルを身につけさせ、さらに2千人を専門家に育成するとした。
こうした戦略の背景には、世界経済を席巻(せっけん)しつつある「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米グーグルなどの巨大IT企業の勢いに対抗しようにも、国内でIT分野の人材不足が問題化している事情がある。
例えば、膨大な消費データの分析から傾向を捉えることで、新たなビジネスチャンスの創出が期待される。新型コロナウイルス禍では、人の流れなどの解析から感染予測などにも活用され、存在感を示した。
「数字の見せ方次第でデータは誇張されることもある。ロジカルな思考を鍛えれば、正確な課題を見いだすことができる」
平成30年度に首都圏で初めて「データサイエンス学部」を開設した横浜市立大。同大3年の鈴木徳太(のりひろ)さん(22)は話す。
アルバイト先のIT企業でも、公開された診療報酬の情報分析に携わり、地域の医療実態を把握するなどDSの手法を訓練する。将来は大学院に進学して製薬会社への就職を目指す。
大学がDSに着目したのは近年になってからだ。滋賀大が29年度に国内初の「データサイエンス学部」を開設したのを皮切りに、各地で学部や学科が年々増加。今年度は立正大と南山大が、来年度も近畿大や名城大などが学部を立ち上げる予定となっている。
全学生に必修化
大学の教育課程に取り入れるケースも増えている。筑波大がいち早く令和元年度から「データサイエンス」という新科目を設けて全学の1年生を対象に必修化。今年4月には、中央大も全学部生約2万5千人向けに入門から応用まで系統的に学ぶカリキュラムを設けた。
早稲田大でも今年度から全ての学部・研究科の学生5万人を対象とした独自の認定制度を創設。習熟度合いに応じて4つの級を設置し、大学が修了証明書を発行することで卒業後のキャリア構築に役立てる。
受験生にとっても、DSに対する関心の高さは他の学部や学科をしのいでいる。河合塾の調査によると、この春の入試では、国公立大工学部のほとんどの学科で志願者が1~2割ほど減る中、情報系学科は逆に志願者を増やした。少子化に危機感を抱く大学側にとって、学生確保の「目玉学部」となる期待がある。
同塾教育研究開発本部顧問の近藤治氏は「現在の子供たちは就職も考えて大学を選ぶ傾向が強い。情報関係の仕事がクローズアップされていることも人気が高まる背景の一つ」と話す。
ただこうしたニーズに対して、「学びの場はまだ圧倒的に不足している。指導者不足が背景にあり、多くの大学が質の良い教員を集めるのに苦心している」(横浜市立大データサイエンス学部長の汪金芳教授)のも実情。指導者の早期育成が大きな課題となる。