高論卓説

「自分は尊重されている」感覚はあるか 働きにくい職場の見極め方

 最近、「今の職場に残るべきか」を問う相談が増えている。職場を辞めようとする理由は、多くの場合、複合的で本人の性格なども影響する。しかし、職場環境や対人関係などの外的な理由を掘り下げていくと、「働きにくい職場」が存在していることが分かる。(舟木彩乃)

 IT企業のウェブデザイナーに転職して半年になるAさん(30代男性)は、経験は浅かったが、社長面接で「経験は入社してから積んでくれたら良い。あなたのセンスをうちで生かしてほしい」と言われた。経営理念には「従業員こそ財産」という言葉が強調されていて、社員を大切にする企業だと思い入社を決めた。

 しかし入ってみると、出入りが激しく常に人手不足の会社だった。Aさんは、日々クレーム処理に追われ、スキルアップにつながる仕事はほとんどできず、同僚も残業が続き疲弊していた。Aさんは、上司に現状を訴え、ウェブの仕事に携わりたいと要望したが、「余計なこと考えないで言われた通りにやってろ」と怒鳴られた。その話が社長にも伝わり、「ウェブデザイナーとして入社したのに全く期待に応えていない」と厳しく言われ、ここでいくら頑張っても報われないと悟ったそうだ。

 働きにくい会社は、従業員の「首尾一貫感覚(Sense of Coherence、SOC)」が育ちにくい職場である。SOCは、第二次世界大戦中ナチスドイツの強制収容所に収容されながら、戦後も生き延び、更年期になっても良好な健康状態を維持していた健康的で明るい女性たちが共通して持っていた考え方や特性である。

 医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士(1923~94年)が提唱したもので、3つの感覚から構成されている。

 (1)把握可能感(だいたいわかったという感覚)…自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること

 (2)処理可能感(なんとかなるという感覚)…自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること

 (3)有意味感(どんなことにも意味があるという感覚)…自分に起こることには意味があると感じること

 「一貫した集団(共通の価値観とルールを持つ集団)」の中で経験を積める職場は、「把握可能感」を高めることができる。経営方針などの目的を共有でき、評価制度がしっかりしていて、求められる具体的な基準があると、社員は努力する方向性が分かるからである。

 また、経営方針やトップの考えに共感できないと、働く意義を見いだせず、「有意味感」を高めることができない。社員の満足度が低い職場は人間関係が良くなく、問題が起きても誰にも相談できず、「処理可能感」を持ちにくいといえる。

 筆者は、AさんにSOCの概念を使って悩みや迷いを整理することを勧めた。仕事を続けると、どのような未来があるか(把握可能感)、その未来はどのような人脈やスキルがあれば達成できるか(処理可能感)、辛くても今の仕事を続けることに意味を見いだせるか(有意味感)について、考えてもらっているところだ。

 SOCの中でも、仕事で特に重要なのは自分は尊重されているという感覚(有意味感)である。社員が生き生きと働ける職場づくりにSOCは重要なヒントを与えてくれるだろう。

【プロフィル】舟木彩乃 ふなき・あやの ヒューマン・ケア科学博士。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院博士課程修了。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。