ビジネスマンはアスリート

(1)白戸太朗・東京都議会議員 「忙しい人ほどトライアスロンに挑戦するのは理由がある」

SankeiBiz編集部

 “デキるビジネスパーソン”には仕事と趣味のスポーツをうまく両立し、そのいずれもハイパフォーマンスを発揮している人が少なくない。そのエネルギーの源泉や日常生活にフォーカスする連載企画「ビジネスマンはアスリート」。1回目は元プロトライアスリートで、東京都議会議員の白戸太朗さん(54)に、トライアスロンの魅力を聞いた。一度のレースで立て続けに3種目をこなさなければならない過酷な競技。白戸さんは「自分に問いかけ続けるスポーツで哲学的。仕事ができる人ほどトライアスロンに挑戦する」と語る。はたしてその理由とは。

 「トライアスロンは哲学」

--日本人として初めてトライアスロンのワールドドカップで世界各地を転戦していますが、そもそもトライアスロンを始めたきっかけは

白戸議員:

 もともと中学から大学までクロスカントリースキーをやっていて、無雪期のトレーニングで体力的な素地があったところにトライアスロンを知り、挑戦したのが始まりです。

 1980年代後半、当時はまだ、日本ではそれほどメジャーなスポーツではなく、新しいスポーツとして興味を持ちました。初めて出場したレースは、成績は良かったのですが、レース展開の難しさが衝撃的でした。スイム、自転車、ランの3種目で何かを頑張ると何かで力尽きる。1種目競技にない奥深さにはまりました。

 それからプロ時代を含めトライアスロン歴は35年になります。通算600レースほど出場していますが、その中で納得のいくレースは片手で数えられるくらいしかありません。だからこそ追究し甲斐があるし、今もまだ面白いと思えます。

 というのも、トライアスロンは「己のレース」だからなんです。出場者同士が「頑張ろう、フィニッシュでまた会おう」と言いながらスタートするレースなんて他にありませんよね。

 それはつまり、それぞれ戦っている相手が他の選手ではなく内側にいる自分だから。そういう意味でトライアスロンは哲学的です。自分に問いかけ続けるスポーツ、これが他の競技にないユニークな点だと思います。

--他人と競うレースであると同時に、自分との闘いでもあると

白戸議員:

 トライアスロンは、自然の中で長い時間いろいろなことをやるので、すべてが思い通りにいくことはなく、むしろ常に想定外のことが起こります。そういうときに気持ちを入れ替えられなければ、次には進めません。

 やめるのか。それともいったん止まって休んでもう一度進むのか。トライアスロンは判断の連続です。その中で常にメンタリティを保つために自分を客観視する感覚が養われます。実はそのメンタリティこそが体力よりも重要な部分なのではないかと思います。

--白戸さんはトライアスロンの普及のため、ショップからスクール、大会運営までを一手に手掛ける「アスロニア」を2008年に設立されました。それから13年が経ちますが、国内のトライアスロン市場に変化はありますか

白戸議員:

 競技としての規模もこの13年で拡大していますが、トライアスロンに対する世間の認知度が上がりました。これまではニッチな人がやるスポーツという印象もありましたが、近年は「普通の人」もチャレンジするようになってきています。年齢層も少し下がって、現在は20~30代の人も増えています。この13年で参加者の幅が広がりました。

 体力的には若い20代の人の方がエネルギーはありますが、精神的に成熟した30代以上の世代は「自分磨き」にフォーカスできるようになります。努力を重ね、サクセスを得るという達成の喜びを理解できるのは、10代や20代よりも30代、40代だと思います。トライアスロンが「メンタリティスポーツ」といわれる理由はそういった点にあると思います。競技人口の裾野が広がってきたからでしょうか、20代の人が増えているというのは嬉しい傾向です。

 ビジネスとトライアスロンの共通点

--会社経営者といった多忙な人ほどトライアスロンに挑戦している印象があります

白戸議員:

 むしろ「忙しいから挑戦する」という人が多いのだと思います。時間は皆に等しく有限ですが、工夫次第で使い方を効率化できます。逆にいうと、人間は必要に迫られないと工夫をしない。例えば、「この箱の中にこれだけ詰めろ」と言われて初めて、詰め方を考えるのであって、箱の中がガラガラだったら適当に入れてしまいますよね。

 それと同じで、やるべきことが多いから「この1週間にどうやって練習時間を確保しよう」と考えるのです。そんなことを考えるのもパズルみたいで案外楽しいですし、隙間時間を利用することで短いスパンでスイッチのオン・オフが切り替えられるので、それぞれの集中度合いも高まります。

 とはいっても、プラン通りにできる事はそう多くなくて、「今日は思っていた練習の半分もできなかった」とか、「今週は目標の7割できた」とか、そんなことの繰り返しです。でも、達成できない、頑張りきれない感じが、長く続ける上でちょうど良いのだと思います。

 よく「トライアスロンはお金持ちがやるスポーツ」と言われることがあります。ですが、そうではなくて、ビジネスで成功する人のメンタリティとトライアスリートのメンタリティが近いのだと思います。迷ったときに前向きになれるかどうかというバイタリティ。途中で何かトラブルが起きた時にどうしたら前に進めるかを考える。そういう訓練の為(な)せる業(わざ)だと思います。

 面倒になってやめる人はいくらでもいますが、そこをトライアスリートは「じゃあ、どうやって乗り越えようか」と考える。そのメンタルの強さが、結果的にビジネスの成功にもつながるのだと思います。

 あとは努力を積み重ねることを楽しいと思えるかどうか。はっきりいってトライアスロンは地味な練習の積み重ねです。コツコツと練習を積み上げていくことで初めて達成できます。逆にいえば誰でもコツコツ頑張れば完走出来ます。歩みの遅い上達かもしれないけれど、それでも着実に成長を重ねていける根気はビジネスの側面においてもとても重要なことだと思います。

 人生に“第3の場”を

 また、これはトライアスロンに限った話ではありませんが、家庭と仕事以外の場所、つまり「サードプレイス(第3の場)」の置き方が多様な人は、人間の幅が豊かで、とても魅力的に見えるものです。

 趣味を介して広がる仲間との世界や知識は、勉強するものではなく、面白がってのめり込んでいくうちに自然と広がっているものです。仕事と家庭は当然大切ですが、そのサードプレイスの作り方次第で、人生の幅が変わってくると思います。

 特に20代や30代、40代はそれがとても大切です。私自身も、トライアスロンのおかげで今の自分があるようなものなので、若い方はぜひ、第3の場を作るようにしてください。

--都議として多忙な日々を過ごしていると思いますが、現在もトレーニングを続けていますか

白戸議員:

 時間に制限はありますが、体のコンディションと良いメンタリティが維持できるので、時間を見つけながらランやスイムを続けています。

 最近は毎朝、駅で街頭演説を行っていますが、街頭演説がない日の朝は1時間ほどランニングをしています。そうすることで体はもちろん、気持ちも整う気がします。1人で黙々と取り組むのが好きで、自分と向き合いつつ1時間くらい走っていると、頭の中が整理できて気持ちがすっきりします。スポーツというより瞑想に近いイメージかもしれません。

 政治の仕事はストレスも多く、精神的にしんどいこともたくさんありますが、身体とメンタリティが健康であれば、大概は乗り越えられます。そのためにも、意識して運動する時間を確保するようにしています。眠れない、食べられない、ということになると、当然仕事の質も低下します。

 われわれ政治の仕事をする人間は、都民の生活を幸せにしないといけないのに、自分が不健康だったら人を幸せになんてできませんよね。そのエネルギーを保てるよう、自分自身を整えることを常に心がけています。

 東京五輪も「だからやめる」ではなく

--現在、五輪開催をめぐる議論の渦中にいらっしゃる白戸さんですが、競技者ではなく都議として、この“突きつけられた課題”とどう向き合いますか

白戸議員:

 非常に厳しい状況ではありますが、大会だけで言えば、開催は可能と考えています。新型コロナウイルス対策のため、選手・コーチらを外部との接触から遮断する「バブル」方式での開催については、世界中の競技会で普通に行われています。

 日本の選手も世界各国で開催されている大会に参加しており、スポーツの現場に携わる者としては実現可能であることは分かっています。ただ、最も大きな問題は医療の確保と考えます。

 1984年のロサンゼルス五輪以降、巨額なコストをかけて華美なオリンピックが開催されるようになり、われわれはそういうものが五輪だと印象づけられてきましたが、ほんの30年前までは華美なものではありませんでした。

 では次の30年はどうなるか。これは誰にも分からない。もしかすると、今回が五輪に対する既成概念を変える時なのかもしれません。五輪をこれほどまでに盛大に、華美にし続ける必要があるのかということも含め、視点を変えた議論を求められているように思います。

 世の中が全て変わってしまった現状で開催を目指すなら、状況に合わせて対応するフレキシブルな五輪でなければなりません。今後の五輪のためにも「開催する・しない」という単純な議論だけではなく、根本として五輪はどうあるべきなのか。開催するとしたらどうすべきなのかも議論する必要があると思っています。

 トライアスロンと同じで、突き付けられた課題を前に「だからやめる」のではなく、「どうやってフィニッシュするか」という考え方ができるかどうか。その議論を放棄してしまったら、五輪だけでなく、困難に対峙(たいじ)する社会の進化が止まってしまうのではないかとも思います。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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【ビジネスマンはアスリート】は仕事と趣味のスポーツでハイパフォーマンスを発揮している“デキるビジネスパーソン”の素顔にフォーカス。仕事と両立しながらのトレーニング時間の作り方や生活スタイルのこだわりなど、人物像に迫ります。アーカイブはこちら