暗号資産(仮想通貨)の基盤技術として知られるブロックチェーン技術を応用し、複製可能な画像や映像のデータを“一点物”にする「NFT」(非代替性トークン)と呼ばれる新たなデジタル資産の取引が注目を集めている。ゲームなどで活用されている技術だが、アート作品のオークションでの高額取引が相次いでおり、米国出身のデジタルアート作家「ビープル」ことマイク・ウィンケルマンさんのデジタル作品が約6930万ドル(当時約75億円)で落札されるなど入札価格が高騰。バブルの様相を呈している。日本でも、書道家の武田双雲さんが参入、2作品をそれぞれ出品し注目を集めた。NFTはアーティストと買い手の関係をどう変えていくのか。
武田双雲、実はバリバリの理系
NFTをたとえるなら「プロ野球選手のサインボール」のようなものだ。元々は量産品であっても、有名選手がサインをして、それを球団などが本物だと認めたならば、他のボールと“代替不可”の価値を持つことになる。
実物と違い、デジタルデータである画像や映像のコピーを作ること自体は簡単だが、誰もが“台帳”を持って改ざんを相互監視するブロックチェーン技術を活用しているので、NFT所有者の権利を不正に書き換えることは難しい。ツイッターの投稿のようなネット上のデータでも複製や改竄(かいざん)が不可能で、第三者による検証なしに真正性を証明できるという特徴を持つ。
インターネット上の交流が発達した現代だからこそ、誰もがアクセス可能なデータを所有することにステータスや資産価値を見出す風潮が生まれ、NFTブームを後押ししたと見る向きもある。
今年上旬にブームが大きくなり、ツイッターのジャック・ドーシーCEOの「最初のつぶやき」が約291万ドル(同約3億2000万円)、日本のVR(仮想現実)アーティスト・せきぐちあいみさんの作品が1300万円で落札されるなどの成功例が生まれているが、まだあまり馴染みのない技術であることは間違いない。
「ブロックチェーンゲームをどう説明しようかと悩みましたが、双雲先生ご自身が東京理科大学ご出身でバリバリの理系。しかも、卒業論文のテーマが暗号通信のアルゴリズムだったということで意気投合しました」
NFTアート企画「Crypto 双雲」を手掛ける「double jump.tokyo」(東京)の松谷幸紀さんは、武田さんとの出会いをこう振り返る。NFTを活用したゲーム「マイクリプトサーガ」を制作する同社は、同ゲームのタイトルロゴを武田さんに依頼したことがあり、それが今回の企画につながった。
武田さんがNFTマーケット最大手のオークションサイト「OpenSea」に出品している作品は「SCAM退散」「GOX平癒」。いずれも武田さんが筆で紙に書いたものをデータ化した作品で、ブロックチェーンでの詐欺(SCAM)や、ハッキングやパスワード紛失で暗号資産を失うこと(GOX)をなくしたいとの思いが込められている。仮想通貨のリテラシーが高い“クリプト民”にとっては「護符のような言葉」(松谷さん)だ。
オークションはイーサリアムという暗号資産を用いる形で行われ、開始価格は1ETH(約30万円)で、今月2日から4日午後11時まで続く。
アーティストに一部還元
NFTアート作品のオークションでは、暗号資産で最も価値が高いとされるビットコインではなく、業界2番手のイーサリアムが用いられることがほとんど。イーサリアムに由来する「ERC721」という規格が標準になっており、落札したデジタルアートを別のオークションサイトで売ることも可能だ。これにはイーサリアムに実装されている「スマートコントラクト」と呼ばれる機能が関係している。
スマートコントラクトは、仮想通貨のやり取りに独自のルールを追加できるのが特徴だ。例えば、落札者がNFT作品を他の人に有償で譲渡する場合、手数料の一部を出品者が受け取れるようにすることもできる。実物の美術品が資産として扱われ、人から人へと転売が繰り返されてもアーティストに金銭的な還元がない、というケースとは大きな違いだ。
武田さんの2作品にも同様のルールが設定されており、出品者がOpenSeaで作品を販売するときに支払う10%の手数料のうち、OpenSeaが2.5%、武田さんとdouble jump.tokyo側が7.5%を受け取る取り決めになっているという。
松谷さんは、武田さんの作品が資産運用に使われるのは本意ではないと前置きした上で「NFT作品の価値を通じて、売り手と買い手の関係が運命共同体になっていきます」と説明。アーティストが二次流通取引時のインセンティブを得て、作品購入者がインフルエンサーとなってNFTアートの価値をさらに高める好循環が広がってほしいとの願いを込める。
一方、新しい売買に世間の理解が追いついていないのも事実だ。武田さんの例では「書の高解像度デジタルデータの所有権」が落札の対象であり、原本の書や著作権などは含まれない。NFTのブーム拡大には、買い手側が仕組みそのものをしっかり把握することが必要になる。
米電気自動車(EV)大手、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がテクノ調の曲を販売すると予告して撤回、現代美術家の村上隆さんがOpenSeaでの出品を取り下げるなどの混乱も起きている。
村上さんは4月、「NFTの長所を生かし、コレクター/オーナーの皆様の利便性、作品所有の満足度や安心感を最大化する」ための議論を重ねて再挑戦したいとInstagramで説明しており、売り手側の体制もまだ万全ではない様子がうかがえる。
アカウントの初期設定や、購入の際に発生する手数料(通称「ガス代」)の高騰が新規参入を阻む恐れも指摘されている。ガス代も仮想通貨で支払われることから、イーサリアムの価値が上がれば、それだけガス代が高額になるためだ。
現状では、OpenSeaで売買を行うための初期設定をするには1万数千円程度のガス代がかかるとされており、お試しでオークションに参加するにはハードルが高いと言えそうだ。
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